003 文明の勝利
「シュワッてします! シュワッて!」
コーラを飲んだ感想です。
たしかに向こうの世界にはなかった。
ガサゴソと冷蔵庫と物置棚を探って、ティータイムにしゃれ込む僕らでした。
冷蔵庫の中のジュース……正確には清涼飲料水は異世界組には大好評で、たしかにこればっかりはどうにもこうにも。
それはポテチやチョコも同様の御様子で。
テレビゲームをしながら、ジュースとお菓子で口を楽しませ、普遍的な日常を過ごす。
全員が、既に屋敷内のインフラからして、驚愕の範疇のようだ。
しばらくは外出禁止令を出している。
なのでやることはゲームか読書か勉強か。
そんなところだろう。
「ツナデお姉ちゃんは?」
イナフが問うてきた。
「PSIA」
「?」
「我が家の仕事」
義兄が務めていたんだけど、行方不明になったので、代わりにツナデが派遣されたわけですな。
警察や防衛省とはまた毛色の違う組織だ。
伊賀や甲賀、風魔に霧隠に黒脛巾組。
各々の家が、それぞれの組織に従事しているのだけど、我が家は結構フリーランスだ。
PSIAとは義兄が懇意にしていたけど、就職口としては悪くない。
ところで学校はどんな判断を下すのだろう。
少し考える。
「むむ」
フォトンは難しい顔でスマホを弄っていた。
契約が解除されているので、やれることはそんなにないけどタッチ方式のインタフェースだけでも目新しいにもほどがあるのだろう。
他にもパソコンやタブレット、書架に在る膨大な量の本、電話にインターネット。
魑魅魍魎だ。
失礼、奇々怪々か。
「ふぬ。この」
「ん~。だね」
ジャンヌとフィリアはゲームに夢中だった。
よく分かる。
ゲームは楽しいからね。
「ふおー」
ウーニャーもカラフルに移り変わるテレビを見ながら感嘆のようで。
学校にはツナデから連絡を入れるとのことで、こちらは放っておいた。
どちらにせよ、早いか遅いかの違いだ。
「さてそうなると……」
昼食を用意せねばならないのだけど。
「出前でいいか」
簡潔に結論づける。
中華を適当に、六人前。
「いただきます」
を皮切りに、食事をとる。
「あの……どこから持って来たんですか……?」
「出前」
要するに食事を事前に作って配達するサービスだ。
ここの中華は僕のお気に入り。
中華丼をかき込みながら、酢豚で舌鼓を打つ。
「そんなシステムが」
ケータリングとかもあるしね。
「それにしても高度なシステムね」
チャーハンを食べながらフィリア。
「ま、ね」
店屋物は総じてクオリティが高い。
まして異世界の文明とは比べるべくもないだろう。
「あう……その……リリアたちは……働かなくても……?」
「いいんじゃない? 貯蓄はあるし。僕やツナデは仕事に困らないしね」
その程度は、殊更心配の必要も無いだろう。
「ウーニャー……」
「ウーニャーも食べる?」
「要らない!」
「元気があって宜しいこと」
「総じて油が多いですね」
中華ですからね。
「フォトンも太らないようにね」
「はあ」
ぼんやりとそんな感じ。
「あの……トランプとか……ありますよね……」
「まぁね」
異世界でも結構やっていた。
「此方では……出来ませんか……?」
「出来るけど」
「じゃあやろう!」
グッとイナフ。
目新しい物ばかりなせいか、常識に追従する物が恋しいらしい。
そげなわけでトランプを持ってくる。
カードはプラスチック製であるので、多少は折り曲げても後に残らない点をもって……何かと便利ではあろうぞ。パラパラと混ぜる。
「じゃあどうぞ」
僕はカードを切るだけ。
書架から本を取り出して読む。
ついでに薬効煙を吸った。
脱法ハーブに近い位置取りだけど、どちらかと云えば処方箋的な意味での薬だ。
気分を落ち着かせるための物。
「ウーニャー?」
「人間失格……っていうの」
「パパが?」
「たしかにね」
罪行を犯したわけだから、そうとられてもしょうがなくはある。
「ツナデは?」
「もうすぐ帰ってくるんじゃない? 夕飯の支度もあるし」
「屋敷広いのに使用人が居ないね?」
「一応血族で固まるのが防御手段でね。間諜の可能性は極力排するのが常なんだ」
「ウーニャー?」
「要するに、信頼できる人間しか家に上げないって事」
「ウーニャー! ウーニャーも!?」
「ウーニャーは可愛いし」
「ウーニャー!」
御本人嬉しそうでした。