002 朝食のついでに
「にゃむ……」
久方ぶりの自室で寝た。
添い寝したいとヒロインたちが言ってくるんだけど却下で。
ウーニャーは別枠扱い。
我ながら何かと業の深い気もするけど……ウーニャーに甘えられると書物の全能神の様に、全てを許してしまう超越感を覚える。
「ウーニャー……」
広い屋敷を、ダイニングまで進む。
味噌の香りが出迎えてくれた。
「おはようございますお兄様」
エプロン姿のツナデだ。
萌え。
「ふおー」
「ふむむ」
フォトンとイナフはテレビに夢中。
日本語は通じるので、問題なく慣れるだろう。
「食事ありがと」
「いえいえ。お兄様をサポートするのも仕事ですので」
「多謝」
そんな感じ。
「IH……ですか……」
リリアはシステムキッチンに興味を示していた。
焼き鮭と目玉焼き。
「御飯が出来ましたよ」
とは全員に向かって。
屋敷のそこそこな食堂なので、結構ギリギリで収まった。
「あのテレビってどういう理屈なの?」
イナフは分かっていないらしいけど、地デジの理屈は僕も分からない。
「映像系の技術躍進は目を見張るからね」
両手を挙げて降参だ。
「魔術……じゃないんだよね?」
「技術ですな」
「ふむ」
赤眼が閃いた。
ジャンヌの手の平から炎が点る。
「使えるようで」
「みたいですね」
結局こっちでも魔術は理屈に適うらしい。
「じゃあ何故フォトンの無限復元が無かった事になるかって話……」
――パッシブスキルだからじゃないの?
それが僕の結論だ。
要するに常駐ソフト。
ヤルダバオトが常時維持している魔術が、こちらの世界に来たことで魔術の更新が滞ったのではないか……。
システムそのものは世界法則に適うし独立するけど、神様が居ないので、受動的な魔術は成立し得ないのだろう。
焼き鮭をハムリ。
味噌汁を飲む。
御飯を食べて、漬け物をコリコリ。
「幸せ……」
久方ぶりの日本食。
やっぱり醤油と味噌ですよ。
コレがイタリアならトマトとオリーブオイルになる。
南無三宝。
「美味しいですか? お兄様……」
「バッチグーでござんす」
「あは」
「えと……その……」
リリアの提起。
「キッチンの使い方を……教えてください……」
「構いませんよ」
「お姉さんにもお願い」
「ええ」
「こうなると私もでしょうか?」
フォトンまで言い出す始末。
「そんなに僕に手料理食べさせたいの?」
「もち」
「です……」
「よね」
「御機嫌なことで」
味噌汁を飲む。
胃に優しく、じっくりと身体が温まった。
さて、
「朝食は美味しいんだけど」
「何か?」
「食材の買い物はどうする?」
「ツナデとお兄様しか適合できませんよ」
デスヨネー。
まずスーパーに行けという方が無理だ。
しかもカラフルな髪を持っている。
悪目立ちこの上ない。
「現代文明に慣れるまでは自重を願うと?」
「その方が上手く回ります」
「ご尤も」
「外に出れないの?」
「いずれ出すけど、まずは屋敷での疑問がなくなってからね」
「テレビとか照明とか?」
「パソコン。スマホ。インターネット」
「オール電化にはしていますけど、正直我が家の貯蓄は影響ありませんよ」
「稼いでたからね」
色々と。
「お風呂も自動ってどういう理屈?」
「トライデントなしでも何とか出来る」
「でも時間がかかるのよね」
この場合、風呂システムが劣っているのではなく、フィリアのトライデントが突き抜けすぎているだけである……ソワカ。
「ツナデ」
「はいはい」
「味噌汁お代わり」
「はい!」
常咲きの向日葵のように爛漫に笑う彼女でした。
「ウーニャー」
どうやらドラゴンはこっちでも食事を必要としないようだ。
五千年も生きられると、その内加当の御家の御本尊になりそうで怖い。
南無。




