001 ボタン一つで
「ふおー」
パチパチ、パチパチ。
照明が点いたり消えたりする。
場所は加当の御家。
僕らは元の世界に戻ってきた。
…………余計なオマケを付けて。
パチパチ、パチパチ。
ボタン一つで照明が点いたり消えたり。
「すごいねー!」
僕の頭に居座っているドラゴンが、興奮状態で声を漏らす。
ていうか虹色のドラゴンって、こっちの世界では在りだろうか?
「ふおー」
パチパチ、パチパチ。
照明が点いたり消えたり。
「気は済んだ?」
「全然です!」
フォトンも興奮しているようだ。
ま、元の世界と比較すれば、インフラの整備に於いて格段の差があることは否定しようのない事実ではあれども。
「ま、気に入ったなら良かったよ」
「ここがお兄様の帰る家なのですね」
「これからはそうなるのかな?」
父と義兄は行方不明になった。
銀英の言葉を借りるなら、
「滅びるべくして滅んだのだ。殊更僕が滅ぼしたわけじゃない」
とでも相成るのか。
家督はツナデが継いだ。
警察も危機感は抱いても、捜索は仕事としてするらしい。
特に公安は、僕とツナデに不信感を与えていた。
いきなりな行方不明。
で、身元発見と同時に、今度は義父と義兄が行方不明。
点と点を線で結ぶな……と言う方が無理筋だろう。
基本的に日本には諜報機関がない。
もちろん肩代わりする組織は存在すれども、なんというか第二次世界大戦以降は某国に言い様に改造された経緯はある。
そのため古典的な諜報の血筋として忍が肩代わりしている節がある。
うちもその家系。
で、お国のために働くんだけど、その当主と息子が一遍に行方不明と来る。
そりゃまぁ政府の目も厳しくはなり申して。
「良かったの? マサムネちゃん?」
フィリアが問いかける。
決着を付けたのは僕だけど、フィリアにも手伝ってもらった。
トライデント。
海神ポセイドンの武器。
あらゆる水と地を支配する神器だ。
遺体を残さぬ完全犯罪には持って来いと言える。
――まず、何故こっちの世界でも使えるのか?
それも思索の一つではあろうけれども。
「久方ぶりですね。こちらの空気も」
ツナデは鴉色の髪を流しながら、我が家を確認する。
確かに久方ぶり。
ついでにあまり変わりもないようで。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんの家なんだよね?」
イナフが尋ねる。
金髪碧眼のハーフエルフ。
耳は長くないので、此方の世界にも適合するだろう。
フォトンとリリア、ウーニャーとフィリア、それからジャンヌはどうしたものか。
あまりにカラフルな髪の色は悪目立ちする。
「さて、どうしたものか」
契約している業者から、薬効煙を取り寄せている。
その箱を開けて、口元に加える。
ライターで火を点けた。
スーッと吸ってフーッと吐く。
ほにゃら。
やっぱり本家本元が一番しっくりくる。
「何ソレ?」
ウーニャーが僕の手元を尻尾で指した。
「ああ、これ? ライター」
「らいたあ?」
「ボタンを押すだけで火を発生させる小道具」
「魔術?」
「こっちの世界には存在しないね」
今更ながらフィジカルな世界だ。
多分。
きっと。
――忍術はどうなんだ? って話ではあるけども。
「パパ!」
頭から下りて人型になるウーニャー。
「ウーニャーにも使わせて?」
「かまわないけど」
ライターを渡す。
普通にドラゴン魔術は使えるらしい。
ブレスも吐けるとのこと。
実際にフィリアのトライデントやジャンヌのパイロキネシスも行使できた。
――何故か?
仮説はある。
ただまぁ突き詰めても意味は無いだろう。
南無三。
「おお」
カチッ、カチッと、ライターを点ける。
「すごいねパパ!」
ウーニャーのお気に召したようで。
「こっちの世界はもっと面白いよ」
「そうなの!?」
「うん。だからいっぱい見ようね」
「うん! パパ!」
「お兄様?」
「何か?」
「ウーニャーに気を許しすぎでは?」
そーかなー?
何となく……自分でもそんな感じは覚えたり覚えなかったり……やっぱり覚えたりもするんだろうけども。
「ダメ?」
「嫉妬します」
血の繋がらない妹も難儀だね。