こういう未来もあったらいい:前
【 僕は「ごめん」と言った】
【→ 僕は「それで」と言った】
「それで? フォトンの呪いはどうするの?」
「簡単です」
「拝聴しよう」
「お兄様のワープ魔術は空間を破壊するのですよね?」
「まぁね」
空間破却。
空間破壊性結果論転移。
「それで世界と世界の壁を壊してください」
「…………」
マジマジと、ツナデの瞳を覗き込む。
どうやら冗談を言っている類でもない。
「ええと……」
それはつまり……、
「元の世界に帰るってこと?」
「です」
深く首肯される。
「いわゆるデミウルゴスを観測していない世界に戻れば、必然フォトンの無限復元も対処外となるでしょう?」
魔術が神への祈りで有る限り、それは事実だ。
神が、空間を越えて世界に干渉が出来なければ今の僕らは存在しないけど、それでも異世界の文明にまで口を出す神様でもないだろう。
「ツナデはソレで良いの?」
僕としては其処こそが肝要だ。
加当の家のしがらみを畏れたが故に、ツナデは僕の味方になれなかったのだから。
「先に言わせてください」
「何でもござれ」
「申し訳ありません」
ツナデは土下座した。
「…………」
少し不意をつかれる。
「ツナデが未熟でした。お兄様を想っておきながら保身に奔り、お兄様に応えられなかった己を恥じます」
「ツナデが心配することじゃないよ」
薬効煙を吸って吐き、苦笑する。
「もう迷いません。誰が何と言おうと、ツナデはお兄様を全面的に味方します。そこに異論を差し挟む人間が居れば、実力で以て排除します」
「それは加当のお家を?」
「お兄様を蔑ろにするなら、結果としてそうなりますね」
ツナデの瞳には殺意による酩酊がちらついていた。
「…………」
薬効煙をプカプカ。
「如何でしょうか?」
「まぁフォトンが無限復元から解放されるなら……ソレも一案だけど……」
なんだかなぁ。
「代わりにツナデが苦しむのなら、いってこいでトントンじゃない?」
「お兄様」
「はいはい」
「お兄様は、ツナデのお兄様でいてくれますか?」
「別に反故するつもりもないね」
「でしたら愛妹のために、力をお貸し願えませんか?」
「例えば?」
「お兄様の真の力を……お父様方を対象に披露して貰えれば、と」
「…………」
薬効煙をプカプカ。
紫煙を吸いながら吟味する。
妥当性。
正当性。
それから結果論。
「ツナデは義父や義兄は大事じゃないの?」
「あんな奴原……一刻でも生き長らえていることが不快です」
サクッと言われた。
それもどうよ?
「お兄様」
ツナデは言う。
「ご決心ください」
と。
「ツナデは後悔してるの?」
「お兄様の御味方できなかったことなら深刻に」
嘘をついてはいない。
それは読み取れる。
結果として今を喜んでいるのだから。
けれども、それは逃避であり、僕に対する裏切りでもある。
そういうことなのだろう。
「まぁツナデがいいならいいけどね」
嘆息。
フーッと煙を吐く。
「となると……」
色々考えなくっちゃなぁ……。
そういうことになる。
別段ツナデの意見を、軽んじるわけでも重んじるわけでもない。
でも妹の願いは確かに受け取った。
これは僕が『お兄ちゃん』として出来る数少ないことだ。
誰に理解されるでもない。
僕が僕として決着すればいいだけ。
「…………」
薬効煙をスーッと吸ってフーッと吐く。
「とりあえずは白金のオレイカルコスを地上に送り届けなきゃね」
ついでに地上で待っているヒロインたちの意見も聞かにゃあな。
「…………」
大凡返事が想像出来るのも、まぁ業の深いことだけど。
煙をフーッと吐いた。
それにしてもツナデが……ね。
変われば変わるものだ。




