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剣の国03


「ふえ?」


 とデミウルゴス。


 自分が手に入れた能力について、困惑しているようだ。


 暗闇で過ごした人間が、太陽光を浴びた初体験で驚くような反応だった。


 自分を顧みる。


 それがデミウルゴスには欠けていたのだから。


「何……? これは……?」


 基本的にデミウルゴスは、人の都合に合わせた対処が出来るだけである。


 天使は知性が無く、魔術は無制限。


 そこにデミウルゴスとしての意見が、存在していない。


 そのアンチテーゼが僕だ。


 クオリアへのクラッキング。


 子ども。


 幼稚。


 自分を自分と定義できない。


 先述したけど、そんな知性だけのデミウルゴスに、自己同一性を与える。


 大人にすることと同意だ。


「感想は?」


「もやもやする……」


 だろうね。


 究極の人類慈愛。


 究極の人類憎悪。


 そんな二面性をデミウルゴスは持つ。


 矛盾にして二律背反。


 が、それは神だからこそ許される物。


 人間は絶対善と絶対悪には成れない。


 どうしても欲が行為に混じってしまうからだ。


 善寄り。


 悪寄り。


 どちらかに振り子が振れることはあれども、それも一時的な物だし、解釈によって善は悪になり悪は善になる。


 その能力を僕はデミウルゴスに与えたのだ。




『慈愛』は『好き』じゃない。




『憎悪』は『嫌い』じゃない。




 人の人たる要素は、慈愛でも憎悪でもなく、好きか嫌いか。


 言ってしまえば人間味だ。


「デミウルゴスは、能動的な人間理解として魔術を人類に与えてるね?」


「だよ」


「人を殺したり、物を奪う魔術まで」


「だよ」


「そこに何を思わないのが、今までの君だったはずだ」


「うん」


「デミウルゴス。君には自主自立が足りてない」


「それをマサムネが足してくれたの?」


「そういうこと」


 コックリと頷く。


「さて」


 僕は酒を取りだした。


 ここは形而上の空間。


 なお万能のデミウルゴスの世界。


 空想が現実になるのも、偏にそのせいだ。


 僕とデミウルゴスの分だけ酒を注ぎ、片方を渡す。


「今まで人類の魔術要請に応えた回数は?」


「千八十万回」


 一○八……か。


 皮肉にしても辛すぎる。


「先までのデミウルゴスなら、データとして処理するだけだったはずだね?」


「だよ」


「じゃあ振り返ろう」


「振り返る?」


「千八十万回の魔術で、どれに義が有って義が無かったか。徳が有って徳が無かったか。罪が有って罪が無かったか。千八十万回の魔術を全て自己同一性で評価しよう」


「無茶だよ」


「僕が付き合う」


 断固として云った。


 デミウルゴスに足りないのはソレだ。


 使われた魔術の全てを顧みて、能動的自己判断で善悪の評価を付ける。


 何が正しいのか。


 何が間違ってるのか。


 それを理解し取捨選択する。


「じゃあ第一の魔術から――」


 僕は言う。


 どの魔術が、義が有り、徳が有り、正しいか。


 どの魔術が、義が無く、徳が無く、間違っているか。


「ええと……」


 デミウルゴスは、ソレまでの魔術行使に於けるデータを掘り返して、自身の自己同一性に当てはめる。


「これは山賊が暴力で使っていたから……」


「魔術学院の決闘で……」


「自己保身のため……」


「復讐で……」


 一つ一つを振り返る。


 無尽蔵に魔術を再現していたデミウルゴスは、もう居ない。


 何が正しくて、何が間違っているか。


 それを完全では無いにしろ、善良に判断することが支配者には肝要だ。


「神だって生きてるんだから我が儘を言ってもいい」


 纏めてしまえば、そういうこと。


 そして僕とデミウルゴスは、千八十万回の魔術の記録を振り返って、その善し悪しを選定してのけるのだった。


 何が正しいのか?


 何が間違っているのか?


 それを巫女の視点でも蓄積したデータもなく、


「一人のデミウルゴスという自己同一性」


 が判断基準になって、初めて世界は平和になるのだ。


 熟知万能。


 これからのデミウルゴスは、そう呼ばれる存在だろう。


 そして人間を本当の意味で理解した以上、ラセンとフォトンの無限復元も道理に悖る能力の一貫だ。


 解決に時間は要らなかった。


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