天の国17
ルシフェルは憎々しげに僕らを見やって、
「人間を神の座に入れる気か!」
そう怒号を上げた。
憎悪の塊。
人を罰する神の代弁。
「基本的に無条件で人の味方をするのが天使な物で」
ミカエルは何処吹く風で嘯いた。
「敵対するかい?」
「ぐ……っ」
どうやらイニシアチブは、ミカエルが握っているらしい。
「天の秤って何じゃい?」
僕がガブリエルに問うと、
「ダメージ交換」
サクリと言われた。
要するに、
「ミカエルが傷ついた瞬間、その傷を敵と交換する事が出来る」
とのこと。
仮にミカエルが死ねば、自動的に発動して致命傷が加害者を襲う。
一種の自業自得の顕現。
なるほど。
守護結界では防げまい。
どちらかといえば形而上の問題だ。
「とりあえず君らは神殿に」
そんなわけで天の国の中央。
その神殿に入る。
守護結界。
天使も堕天使も入れないらしい。
人だからこそ入れる。
「待て!」
怒号と言うには、悲鳴が混じったルシフェルの制止。
「主を殺す気か!」
「ええ」
答えたのはラセン。
そのために大陸を回って、剣の国を望んだのだ。
一種の終着点。
そしてラセンと同一個体のフォトンもまた、神の祝福を受けている。
先述したようにこれは、
『神の誤認による巻き添え』
であるから主をどうにかしないと、フォトンの無限復元も解けない。
「そんなことをしてみろ! 世界が混乱するぞ!」
「?」
とラセンとフォトン。
僕は言いたい事が分かってる。
ウーニャーはそもそも話題についていけてない。
何も考えていない、とも言う。
本当に何でついてきたんだか。
「世界中の魔術師が干上がる」
でしょ?
ルシフェルにウィンクすると、
「その通りだ」
首肯される。
「魔術師の立場がなくなり、魔術を戦力としていた国は、弱小国に相成る」
至極道理だ。
結果は言うまでも無い。
物理的兵力による戦力差が、そのまま国の相対性を決める。
魔の国に代表される魔術国は、瞬く間に併呑の憂き目に遭う。
もちろん魔術が無くなるわけだから、結果としてフォトンとラセンの無限復元も無くなるけど、世界はそれどころじゃなくなるだろう。
神の居ない世界。
神の死んだ世界。
ニアリーイコールで結べる。
巫女はエヴェレット解釈の異世界だと言ったけど、まぁ人が人である以上、似通った発展をするのだろう。
それについては断言してもいい。
「人が死ぬぞ!」
「今も死んでるよ?」
そもそも、人類憎悪を持つ堕天使の言葉でも無い。
どっちにしろ機能限界がある以上、
「堕天使に殺されようと他因で死のうと大差は無い」
が持論だけど。
「貴様は主を祝福しないのか!」
「生憎と無神論者な物で」
僕はハンズアップした。
「ウーニャー。そなの?」
「元々僕の国は宗教観が薄くてね」
「ウーニャー」
納得したらしい。
「マサムネ様の世界には神が居ないんでしたね」
さいです。
「殺すな!」
僕に言われても。
「基本的に僕は付き合ってるだけだよ?」
「いやん」
フォトンがクネクネ。
少し愛おしい。
「別に世界がどうなろうと構わないし」
無邪気に困ってラセン。
だろうね。
当人にしてみれば、無限復元を解く事が第一義だろう。
それ以上は、議論に必要性を覚えなかったため、僕らは神殿内部に入った。
無人。
そうだろう。
おそらく人類史に於いて、僕らが一番乗りのはずだ。
大陸をオーラで俯瞰するウーニャーと、それをデータに落とし込む僕の脳。
空間を無条件で転移する僕の魔術を以て為した暴挙だ。
普通なら迷いの森で右往左往……というかそもそも迷いの森を迷いの森と認識せず、無意識下で弾かれる。
神殿は広かったけど、僕のオーラの半径は超えない。
その中央には儀式場があった。
「転移の魔法陣だね」
ラセンが言う。
人一倍魔術に明るいラセンが言うのならそうだろう。
「ここが剣の国の入口……」
そう云う事になる。