天の国11
それからというと、
「どわぁー!」
「はぎゃー!」
「メーデー!」
絨毯爆撃。
まさにその通り。
天の国は、天使の領域と堕天使の領域に分けられており、時折紛争を起こすらしい。
天の国から剣の国への入口まで歩いていると、途中で何度か堕天使の強襲にあった。
人類憎悪が形を為した神性。
当然、人間である僕やフォトンやラセンは、攻撃対象だ。
堕天使の羽が数本抜けると、それは炎の矢に変わって大地に降り注ぐ。
当然呼吸もままならなくなるけど、無限復元があるので心丈夫。
ただしあたりが業火に囲まれて、絶望を題名とする景色と相成っている。
抵抗するのは、ウーニャーとガブリエル。
ウーニャーはドラゴンブレスで堕天使を消滅させる。
ガブリエルも似たような物だ。
口から吐いたりはしないけど、高エネルギーを具現かつ射出して堕天使を撃墜する。
「まったく堕天使は」
呆れ声のガブリエルだった。
常識的な意見を述べれば、
「お前が言うな」
の典型例だが。
ともあれ天の国は、天使と堕天使の紛争地域らしく、
「云ってしまえば天国に近い国」
略して、
「天の国」
と言えるんじゃ無かろうか?
そんなことすら思う。
僕が無事で居るのは、あくまで無限復元による物。
そこから云ってしまえば、無限復元を解くにあたって無限復元が有用だ、というのもおかしな話ではある。
神様にも都合はあるのだろうけど。
そこかしこで火の手が上がる。
爆撃。
爆撃。
また爆撃。
殆ど災厄だ。
殆ど……というより紛う事なき災厄だが。
苛烈にして灼火。
圧殺にして不遇。
僕一人なら既に三十回は死んでいる。
遁術が役に立たないと云うだけで、ここまでお株が奪われるのも癪だなぁ。
「ガブリエルさん」
とフォトンが呼ぶ。
「何?」
「捕まってください」
手を伸ばす。
その手をガブリエルは握った。
同時にラセンの世界宣言。
想像創造は既に為されている。
「火を以て命ず。ファイヤーボール」
太陽が顕現した。
灼熱。
業火。
猛炎。
眩光。
久しぶりに見る不条理魔術。
もっとも此度はフォトンではなく、ラセンのだけど。
オーラを広げる。
五里にも渡る感覚機能の延長。
が、なお捉えきれなかった。
フォトンのファイヤーボールも大概だったけど、さすがに師匠らしい。
半径十キロのオーラでも捉えられないほど巨大な火の玉は……、
「なるほど太陽だ」
と認めざるをえない。
地面に叩きつけられる。
同時に破裂した。
光が。
火が。
熱が。
音が。
風が。
そして残ったのは更地。
天使も堕天使も燃え尽きて、焼け野原を再現する。
どうツッコんだものやら思考も追いつかない。
「では行こう」
特に素知らぬ顔で先を促すラセン。
「ウーニャー……」
ラセンの頭に乗っているウーニャーも、何か思うところがあるらしい。
口には出さなかったけど、心は通じていた。
「さすが神の造った人間ね……」
とはガブリエルの御言の葉。
規格外という意味では、正にその通り。
とはいえ、地上を容易く絨毯爆撃する天使や堕天使にも、云われたくは無かろうけど。
「ぺんぺん草も……」
な焼け野原を僕らは歩く。
目指すは天の国の中央。
然れど、近づけば近づくほど堕天使の猛攻をまともに受け止める形になり、どうしてもフォトンに寄り添う形になるんだけど。
「いいんですよ」
とはフォトン。
「私がマサムネ様を守って差し上げますから」
それもなんだかなぁ
「せめてクオリアを持っていたら、どうにでも出来るんだけど……」
無い物ねだりは、状況の切羽詰まったことの逆説的証明だ。
「基本的に頭の良いクラゲだしね」
ガブリエルはカラカラと笑った。
哲学的ゾンビも、観測上は知性体として機能するため、まぁしょうがない。
カルテジアン劇場の運営は、僕の仕事では無い。




