天の国06
「…………」
半眼になるフォトン。
ラセンを睨みやる。
気持ちは分からないでもない。
「では私は親の股から産まれたのではなく……」
ラセンが魔術で造った存在。
自明の理だ。
とりあえず僕は語り尽くしたのでプカプカと薬効煙を嗜む。
「何で私を?」
「一種の保険」
ラセンの言葉は残酷極まった。
「保険?」
少し声が固い。
さもあらんけどね。
「マサムネ様は分かります?」
「管轄外」
僕が予想できたのはラセンの仕組みと、そこから演算できるフォトンの業であって、ラセンの思考を読むのは筋が違う。
プカプカ。
「仮に私が大神デミウルゴスを弑できなかったとしよう」
「はあ」
「そうするとデミウルゴスが存在する限り私という存在は永続する事になる」
「それも、はあ」
「巫女によって造られた人間には寿命があるが……私にはそんなものが存在しない」
「さりとて、はあ」
「であれば私の伴侶が必要となる」
「そこがわからないんですけど」
ですよねー。
「要するに私と同じ境遇で私を理解し慰めてくれる存在の創造。その結果として私はフォトンを生みだした」
「むぅ」
生誕の名誉。
不滅の宿業。
フォトンにとってラセンとは生みの親であり呪いの術者でもあるのだ。
「じゃあ私の性能が天晴れなのは……」
「光の国から出さないために相違ない」
結局其処に行き着くか。
フォトンの規格外のキャパ。
そして牢獄のような城のシステム。
ライト王の執念と不理解。
まぁ安全な場所に置いておきたいラセンの気持ちも分からないではない。
賛同するほどでもないけど。
「ウーニャー」
ウーニャーも若干非が入っていた。
非……というか、この場合は同情だろう。
五千年に一度の存在としては何かの感覚共有程度は出来るだろう。
あくまで僕の想像の域を出ないけど。
「とりあえず」
とフォトンが話題を収束に向けた。
「私の無限復元はデミウルゴスの呪いでいいんですよね?」
「だね」
「ラセンが原因ではあれども」
「だね」
「となれば……」
そういうこと。
「剣の国に行くしかないと」
QED。
「別に付き合う必要は無いよ?」
これはラセン。
「私が弑するから待っててくれれば」
「とは云いますが」
フォトンはジト目だ。
「いまだ剣の国を見つけてないんでしょう?」
「ぐ……」
ツッコミは適確だった。
「まぁ不死身だし何時かは……」
「撃ち抜けない砂糖菓子の弾丸くらい甘いです」
辛辣極まった。
「フォトンは場所を知ってるの?」
「知りません」
まぁね。
それね。
「けれどマサムネ様が知っています」
「そうなの?」
ラセンが問うた。
「入口程度はね」
プカーと煙を吐く。
「どこ?」
「大陸中央」
「そんな分かりやすいところに?」
疑問も尤もだけど理屈はこっちにもある。
フォトンが巫女に聞いた理屈を述べ立てる。
曰く、
「剣の国は天の国からの空間跳躍でしか行けない異空間にある」
曰く、
「剣の国はデミウルゴスの知性行為に於ける自滅願望を旨とする国」
曰く、
「迷いの森と呼ばれる迷宮樹林が天の国を囲って知性体が入れないように細工してある」
曰く、
「迷いの森は剣の国と正反対の自衛願望が形を為した国」
と。
「なるほど」
とラセンは嘆息した。
「辿り着けないわけだ」
まこと以てその通り。
クオリアに従う限り、迷いの森の突破はあまりに困難である。
「何か手は?」
「ラセンと会って理解を深めたから何時でも跳べますけどね」
僕は薬効煙を吸って吐くと、慇懃な言葉を放った。
「本当に?」
別に嘘でもいいけどさ。