天の国05
「じゃあラセンが剣の国を目指すのは?」
「神様を殺すため以外の理由が居る?」
そゆこと。
「殺してどうするの?」
「魔術を消す」
そゆこと。
「んーと?」
察してよラセンの下位互換。
「無限復元が何であるかはフォトンもよく知ってるでしょ?」
「光属性の魔術」
「もうちょっと踏み込んで」
「欠損を時間の巻き戻しで無かった事にする復元能力」
「魔術の定義は?」
「デミウルゴスの受動的人間理解」
「じゃあ無限復元の『欠損を元に戻さねばと云う判断』は何処から来てると思う?」
「大神デミウルゴス……」
正解。
要するに天使の能力だ。
「じゃあ無限復元の判断が魔術であり、人間理解であり、その根幹がデミウルゴスであるとするのなら、無限復元を解くにはどうすればいいだろう」
「デミウルゴスを……殺す……」
「そゆこと」
僕は煙をスーッと吸ってフーッと吐いた。
心地よし。
「だからラセンは剣の国に……」
「だぁねぇ」
葡萄酒をザルのように飲みながらラセンは同意する。
「じゃあ先ほど私の無限復元がラセンにも解けないと云ったのは……」
「デミウルゴスが許さないからに相違ない」
デミウルゴスリミッター。
ここでソレが効いてくる。
要するにデミウルゴスにとって都合の悪い魔術は行使されないという一種のセーフティ。
「でも私に」
とフォトン。
「無限復元を掛けたのはラセンでしょう?」
違うと思うにゃ~。
そうは思うけど黙って薬効煙を嗜む。
「半分正解」
ラセンは苦笑した。
深緑の瞳にあるのは慚愧の光。
「もう半分は?」
「結果論としてのデミウルゴスの介入」
「?」
首を捻るフォトンとウーニャー。
「意味が分からない」
と態度で示す。
「やっぱりマサムネは其処まで察してるんだね」
「嫌になるくらいね」
云って煙を吸う。
「どういうことでしょう?」
四つの深緑の瞳が僕を見た。
片方は教授を。
もう片方は代弁を。
それぞれ要求している。
「パソコンに於けるシンタックスエラー」
「パソコン?」
とラセン。
まぁこちらの世界では通じないよね。
それはラセンにも同様らしい。
「この世界が神様のクオリアによって運営されてるとして……その運営をシステム化したのが巫女」
これは妥当。
「とはいえ、あくまで巫女の能力はプログラミング言語の執筆……あーっと、要するに設計図の構築であって……演算そのものはデミウルゴスの功績。これは無限復元の呪いで思い知ってるでしょ?」
「然りだね」
ラセンが頷く。
「で、魔術は想像創造と世界宣言とで構築されるんだけど……」
言葉を慎重に選ぶ。
「要するに巫女のソレとあまりシステム的には変わらない。想像創造という設計図をデミウルゴスに提示してデミウルゴスがソレを構築する事を魔術と呼ぶ」
「ウーニャー……」
「で」
僕は薬効煙を灰皿に押し付けて鎮火させる。
それから新しい薬効煙をくわえて、
「火を以て命ず。ファイヤー」
魔術で火を灯して薬効煙に点火。
「ラセン。僕の火の魔術を再現してみて?」
「火を以て命ず。ファイヤー」
ボッと小さな火が灯って、それから消えた。
「こういうこと」
「?」
ますます混乱するフォトン。
「僕の火の魔術とラセンの火の魔術の違いは?」
「無いですね……」
「じゃあ全く同一の身体をしているラセンとフォトンの違いは?」
「無い……ですね……まさか……」
思い至ったらしい。
「そゆこと」
プカーと薬効煙で呼吸する。
「要するに私がラセンと同一の存在情報を持っているため、デミウルゴスは私をラセンと誤認して私にまで無限復元を掛けている……と」
「大正解」
パチパチとラセンが手を鳴らした。
「要するにラセンが自身のコピーを造ったのが根幹だけど無限復元自体は神様のシステムエラーでファイナルアンサーだね」
そんな感じ。