魔の国13
「異世界?」
「はい」
「召喚?」
「はい」
「ではマサムネ様は……異世界の人間だと……?」
「はい」
クランゼのことごとくの質問を肯定するフォトンだった。
「闇魔術でも高位のソレではないですか……!」
「まぁ気力の問題ですよ」
「異世界召喚を可能とするとは……いやはや……さすがはフォトン様です……」
クランゼは恐縮することしきりだった。
かまわずフォトンは言葉を続ける。
「そしてマサムネ様は魔術の存在しない世界から来ました……。それ故に魔術を知らないんです」
「魔術を知らない……?」
「はい」
「魔術の存在しない世界……?」
「はい」
「それはまた……」
言葉の続かないクランゼだった。
紅茶を一口。
そして僕が切り出した。
「そういうわけでこちらの世界では常識が瓦解寸前なんだよ。目をつむって耳を塞ぐというわけにもいかないし……」
はぁ、と吐息をつき、
「魔術とやらが何たるかを魔術学院にて学びたいと思ってる。ま、観光旅行は他文化の知識を取り入れることが根底にあるからね」
僕はそう言った。
「異世界の住人と申しましたね?」
「そうですね」
「では魔術については一切知らないと?」
「フォトンの魔術を見たことはありますからまるっきり無知というわけでないよ」
「では魔術とはどういうモノだと思ってらっしゃる?」
「要するに熱力学第一法則を無視した現象かと」
そんな僕の答えに、
「ねつりきがく……?」
クランゼは首を傾げる。
これは僕の言葉が悪かった。
「つまり突拍子もない現象を起こすのが魔術ではないのかな……と」
「まぁ正しい認識ではあります」
クランゼは肯定する。
それからクランゼは僕を見据え、
「異世界の人よ」
と問いかける。
「あなたは神を信じますか?」
愚問だった。
「信じてないよ」
「そちらの世界には宗教は無いのですか?」
「ありますよ」
愚問だった。
「ただ僕の国は信仰の薄い土地だったもので」
「神はいないと」
「少なくともまるっと呑みこめるほど信心深くはないね。神っていうのは要するに偶像崇拝の結果だし……」
「しかして神を信じぬ者に魔術は使えませんよ?」
「そうなの?」
問う僕に、
「はい」
クランゼは頷く。
「そもそも世界がどうやって出来たか。マサムネ様は知ってらっしゃるのですか?」
「僕の世界ではビッグバン仮説が主流だね」
「びっぐばん?」
首をひねるクランゼ。
隣を見ればフォトンも首を傾げていた。
「何でもない」
僕は両手を挙げて降参する。
「ただの戯言だ」
そして問い返す。
「ではフォトンとクランゼは世界想像はどうやって為されたというのさ?」
「それは当然……」
「大神デミウルゴスによる尽力の結果かと……」
ああ、なるほどね。
「つまり神が世界を作ったと」
「そういうことですね」
フォトンが頷き、
「そしてわたくしたちの使う魔術はこれに沿って行われます」
クランゼが言った。
「魔術とは……つまり世界を創造した大神デミウルゴスの世界創造能力を借りることで成り立つのです」
「世界創造能力?」
「はい。人が世界に自身のイメージを伝えることで世界を創造する。それこそ魔術の本質です」
「…………」
ちょっと突拍子も無さすぎるね。
だいたいデミウルゴスは無いだろう。
どうせなら普遍的唯一神と言ってほしかった。
まぁどちらにしろ胡散臭いことに変わりはないのだけど。
「ええと……デミウルゴスだっけ……」
「はい」
「その持つ力を利用することが魔術だと?」
「はい。神の力を借りて世界に命令を下し、世界を創り上げる技術。それを指して魔術と呼びます」
「つまり世界創造……」
「然りです。世界創造……無かったことを有ったことにするのが魔術の本質です。火の気のなかった場所に火を、水気の無い場所に水を、その他にも無いという現実を有るという現実に変える。それが魔術です」
「壮大だね」
言葉も無いとはこのことだ。