鉄の国24
とりあえず九十五階層。
ボスエリア。
ウーニャーが倒したモンスター。
そのドロップアイテムたる白金のオレイカルコスを採取して、空間破却で地上に転送させながら攻略している内に目の前に……と云った具合。
オーラで確認するに死者は居たけど、足を使って確認するに銀髪は見受けられなかった。
そんなこんなでボスエリア。
此度のボスは巨大なゴーレムだった。
それも白金のオレイカルコスで造られた。
遁術も利かないし聖剣の材料になるくらいだから物理手段も然程意味は無いだろう。
もっともソレを言ってしまえば如何に伝説の金属だろうと全属性を網羅しているウーニャーのレインボーブレスの前には有象無象だけど。
ドラゴンブレスでボスを消滅させると、剣を造るのに必要十分と言っていい白金のオレイカルコスがドロップアイテムとしてポップした。
それらを持ち歩くのも面倒なので空間破却で地上に転送。
ついでに先にオーラで確認したボスエリアに残された遺体を見る。
「銀髪だね」
「銀髪ですね」
「ウーニャー」
ついでに実用性バリバリ無視の絹で出来た高貴な衣服を纏っていた。
ボスがメタルゴーレムであったため食われたり吸われたりはなかったけど、死体として腐乱寸前ではあった。
「フォトン」
「アイアイサー」
そっとフォトンの手が遺体に触れる。
無限復元。
遺体は時間を巻き戻されて人間としての尊厳を取り戻す。
死体……元死体のイオル王子は目をパチクリとさせる。
「あれ? わたくしは……」
女性だった。
王子と言われていたからてっきり男だと思ってたけど……まぁ『王』の『子』なら『王子』に相違ない。
「意識は大丈夫ですか? 立てます?」
「はあ。あの……あなた方は」
それについては簡略的に説明した。
「では無限復元……セブンゾールのフォトン様が……!」
「さほど大層なモノでもないですけど」
フォトンは肩をすくめる。
とりあえず白金のオレイカルコスは無事地上に届けた旨を説明し、それからイオル王子も空間破却で地上に送る。
「このご恩は一生忘れません」
と言われたけど、まぁフォトンの言うとおりさほど大層なモノでもない。
「とりあえずクエストは完了ですね」
さいです。
「これからどうしましょうか?」
「ブラッディレイン……ラセンを探す」
「まぁそうなんですけど」
「ウーニャー?」
ウーニャーはあまり分かっていないらしい。
とはいえ支障は来さないんだけど。
「一度地上に戻るというのは?」
「ツナデに殺される」
「あー……ですね」
昨夜の三文劇を見届けたフォトンも理解はしたようだ。
「では?」
「夷の国のイセイ王が言ってたでしょ?」
「何と?」
「ラセンは剣の国を探してるって」
「その通りです」
それはさすがに覚えていたらしい。
「で、まぁ何処かにはあるはずだよね?」
「理屈で言うのなら」
「聞くけどラセンはフォトンと違って魔術の強弱も自由自在でしょ?」
「ですね」
「ふむ……」
しばし考える。
「何か?」
「ここが世界五分前仮説の世界と前提をして……その上で架空の歴史上に都合の悪いことを挟めないとする」
「まぁ」
「となれば実のところ世界が有益に動き出したのは近い過去になるよね?」
「それもまぁ」
「じゃあ僕らはラセンに追いつける」
「本当に?」
「そのためにはフォトンとウーニャーの力を借りる必要があるんだ」
「ミー?」
「ウーニャー?」
二人は首を捻った。
ウーニャーは頭上にいるため確認できないけど、まぁ何となくの疑問は受け取れる。
「では剣の国へ?」
「問題はそこで、ラセンの足跡も其処だろうけど」
「未だ以てラセンは剣の国に辿り着いていない……」
その通り。
「じゃあどうするか?」
「うーむ……」
「ウーニャー……」
二人はまた疑問を覚える。
「答えは簡潔」
僕は人差し指を教鞭の様に振った。
「この世界を創った奴に聞けばいい」
「大神デミウルゴスですか?」
「ウーニャー! 多分……巫女!」
「ウーニャー正解。花丸を上げよう」
「ウーニャー!」
「チートじゃ無いですか?」
原義の意味ではね。
「身も蓋もないけど……まぁ話を聞く価値は在ると思うんだけど駄目?」
「とは申しません。ラセンに無限復元を解いて貰える足がかりなら私としても有益ですし」
「ご立派」
僕はウーニャーを頭に乗せて、それからフォトンの手を握った。
「あ」
フォトンが赤面する。
「抱けだの何だの言っておきながら手を握るだけで気後れするの?」
「想い人の前の乙女なぞそんなものです」
否定はしない。
「闇を以て命ず。空間破却」