鉄の国21
「ついに市場が無くなった」
八十階層である。
僕らは完全にアウェー。
パーティはちらほら見られるけど相応の戦力。
市場が無いため食事の確保は自分らでせねばならず、黒パンと干し肉を焼いて食べる。
ついでにカップに純水を入れて水分補給。
悪目立ちしているけど僕らからアクションは起こさない。
代わりとばかりに他のパーティがアクションを起こした。
「何してんだ?」
「喫煙」
僕は食後の一服中だ。
無論タバコではなく薬効煙。
「ウーニャー」
と尻尾ペシペシもいつも通り。
「いや、そっちの嬢ちゃんたちだ」
「神経衰弱」
「?」
意味不明。
顔にそう書いてある。
まぁそうなるよね。
神経衰弱。
誰が名付けたか知らないけど、意味深な表現である。
「神経を衰弱させてるのか?」
「まぁ言葉の意味では」
「実態は?」
「カードゲーム」
「あぁ?」
さらに難しい顔になる冒険者さんだった。
「ここまで来る辺り実力は疑わないが……よくもまぁ生きて来れたな」
「まぁ色々ありまして」
「スーツ姿じゃフレイムウルフの炎やポイズンモスの毒は防げなくねぇか?」
「その辺りは臨機応変に」
上層辺りではツナデのコルトガバメントのお世話になったしね。
ハンドカノンが通じない場合は僕の超振動兼超高熱刀が火を噴いた。
「ふぅん?」
困惑はしてるらしいけど表情上は胡乱げに見やるだけだった。
「なんなら参加してみる?」
「神経の衰弱にか?」
「便宜上の呼び名なだけで基本的に健全なゲームだよ」
フーッと煙を吐く。
それからルールを教えて他パーティを巻き込んでの神経衰弱が始まる。
やはしトランプ無双。
破壊力で言えばウーニャーと五十歩百歩。
僕は参加せず眺めながら薬効煙をプカプカ。
「ところでお前さん方はこんな深部まで何の用だ?」
「依頼を受けてね」
「ってーことは同じか」
「多分ね」
煙を吸って吐く。
「白金のオレイカルコス」
「だぁねぇ」
「イオル王子の救出もか?」
「ウーニャー」
ウーニャーの肯定。
「じゃあ商売敵だな」
「先は譲るよ」
特に反目する理由も無い。
他のパーティに結果を取られても、
「さいですか」
で済ませられる自信がある。
もっとも、場合によっては僕らが必要でもあろうけど。
「あれ? これじゃなかったか?」
冒険者がカードをめくって困惑した。
神経衰弱に興じている内はおとなしい。
ただツナデが自分の順番が来た折にキーとなるカードを別のカードと位置をすり替えているため場に混乱が見られるのだ。
一種のチートではある。
原義的な意味で。
この場合は見抜けない方の責任なので僕は何も言わなかった。
「ウーニャー」
尻尾ペシペシ。
ウーニャーも楽しげに神経衰弱を岡目八目。
ツナデが圧勝して場が終わった。
それから次々とカードゲームを展開する。
ババ抜き。
セブンブリッジ。
ポーカー。
ブラックジャック。
ダウト。
などなど。
「え? くれるのか?」
カードゲームが終わりへと向かった後、カードを木箱ごと譲ると冒険者はポカンとした。
「言っちゃ何だが市場で売れば高値が付くぞ?」
「元手はかかっていませんし」
魔術で作った物だからね。
先にも似たような会話をした気が……。
フーッと煙を吐く。
「じゃあ受け取っておくが……なにか対価に欲しい物はないか?」
中々律儀な冒険者さん。
この階層まで来れば、別パーティは商売敵ではあれど貴重な攻略メンバーでもあるのだろう。
仕事の義理という奴だ。
「じゃあ明日の朝食を貰い受けたい」
と僕が提案した。
「それくらいでいいのか?」
困惑。
中々人の良い。
「わらしべ長者と思えば特に懸念すべき事でも無いけどなぁ」
スーッと煙を吸ってフーッと吐く。
「まぁおまさんがたがそれで良いなら」
トランプに興じながら渋々納得といったところ。