鉄の国17
そんなわけで四十階層。
また十の位の休憩フロア。
僕は冒険者と対峙していた。
とりあえずフォトンとツナデに粉を掛けて振られたあげく、
「マサムネより弱い」
と決めつけられて腹に据えかねたらしい。
南無阿弥陀仏。
僕の意見は何処吹く風。
結果として決闘と相成った。
プライドが薄っぺらい人間ほど僕らに構ってくるのも何だかな。
むしろ逆で薄っぺらいから構ってくるのかもしれない。
いい大人なら笑って済ますだろう。
一応仮想敵自体は数倍に上るのだろうから。
冒険者は剣を構えた。
僕は薬効煙を吸っている。
とりあえずウーニャーはフォトンの頭の上。
プカプカ。
「あー、落ち着く」
そんな感じ。
「舐めてんのか?」
「有り体に言えば」
別に挑発のつもりではない。
オーラを広げているのだ。
感知しているのはフォトンとツナデとウーニャーだけ。
さもあらん。
遁術……こっちの世界で言うエルフ魔術はエルフだからこそ使える技術だからね。
とりあえず薬効煙をくわえたまま決闘開始の合図が為されると、一瞬で懐に入る。
縮地。
その歩法と速度は残影すら明確なレベル。
「ちいっ!」
愚直に振るわれる剣の腹を叩いて逸らす。
拳が鳩尾に入る。
ついでに肘。
そこから逆の手で頭部を掴んで急激に引き落とす。
腰を低くした、くの字型の膝先に冒険者の頭部……というより顔面が叩きつけられる。
もはや剣など意味を為さない。
追い打ちで印を結ぶ。
「刃遁の術」
僕は術名を発した。
同時に口から零れた薬効煙を靴底で踏みにじって鎮火。
斬撃……そによる仮想衝撃。
一瞬で気絶する挑戦者。
「まぁね」
「だよね」
「そらね」
「ウーニャー」
僕らはそんな感じ。
衆人環視は、
「意味不明だ」
と困惑していた。
無理もないけど講義する気も無い。
気絶した冒険者の皮膚には皮膜出血と斬撃の痣。
「何かしらの魔術」
そう衆人環視は取る。
訂正はしない。
基本的に遁術は秘匿されるべき術であるからだ。
夷の国でも言ったけど、
「誰も彼もがオーラを使えるのなら遁術は意味をなさなくなる」
これは絶対法則だ。
であるから忍者八門および遁術は裏で受け継がれているのだから。
うだうだ言ってもしょうがない。
「僕の勝ちということで」
新しい薬効煙に火を点けて煙を味わう。
「ウーニャー!」
喜色の声。
「パパ強い!」
ウーニャーに言われてもなぁ……。
「さすがはお兄様です」
ツナデもご満足のようで。
「ウーニャー」
ウーニャーは定位置に戻った。
要するに僕の頭。
それからトトカルチョを終えた冒険者は去って行き、これからと相成る。
慣例通り市場で食事。
同時に保存食を購入して四次元ポケットに収納。
場合によっては先のように攻略の途中で食事という可能性もある。
であるため水は魔術で補填できても食事については市場で補填するしかない。
別に魔術で食事事情を補填できはするだろうけど、
「なんだかな」
が僕の感想。
魔術による再現は可不可なら可だけど、
「身も蓋もない」
は穿った見方だろうか?
いいんだけども。
とりあえずパンと肉とスープで食事を終える。
それからキャンプを借りて就寝の時間。
三人で横になって寝る。
とは言ってもこればっかりは生理現象だけど。
「ウーニャー」
とウーニャーは人化して僕の寝袋へ。
いい加減ツッコミも追いつかない。
それはフォトンもツナデも同じだろう。
「パパ?」
「何でがしょ?」
「次からは四十階層だね?」
「だぁねぇ」
「ウーニャー頑張るよ?」
「奮起しなさってください」
クシャッと虹色の髪を撫でる。
「ウーニャー」
ウーニャーの笑顔はほころんだ。
愛い奴め。
そして人化したウーニャーを抱きしめて瞑想。
眠りに落ちるに大層な時間を必要としない。
速やかに意識の奈落へ真っ逆さま。
それではまた明日。