鉄の国09
それからキャンプ場でテントを一つ借りて今日はこれまで。
トライデントが無いため風呂には入れないけど、まぁ論じても意味は無い。
とりあえず夕餉を取る。
市場で買った物だ。
何やらモンスターの肉も売っているらしい。
ダンジョンに吸収される前にはぎ取ればドロップアイテムの一つとのこと。
金銭を支払ってバーベキューのバイキングに参加。
がじがじとかたい肉を囓る。
ついでに野菜や薬味も。
僕らは目立っていたけど不埒な輩は近づいてこなかった。
ま、一応威力は見せたしね。
私怨を断つに力を拠り所にするのは交渉の初歩だ。
あぐあぐ。
「ウーニャー」
ウーニャーも目立っていた。
まさか竜王が居るとは思っていないだろうけど、竜を飼い慣らしている人間というのも物珍しくはあるだろう。
「へい」
と冒険者の一人が声を掛けてくる。
「何でっしゃろ?」
肉を囓りながら僕。
「あんたモンスターテイマーか?」
「違いますが?」
「そのドラゴンはどうした?」
「契約」
「契約?」
「バーサスといえば通じるかな? 要するに竜騎士だよ」
「それはそれは」
かっかと冒険者は笑った。
「子どもの竜と契約したのか?」
「だぁねぇ」
零歳児なのだから子どもで間違いは無いだろう。
それにしては理解力が人並み以上だけど。
そう言えばこの世界での哲学は竜の趣味だっけ?
「どこで手に入れた?」
「竜の国」
「行ったのか?」
「そう言った」
肉をガジガジ。
「ふぅん?」
冒険者は値踏みするようにウーニャーを見やる。
「売る気は無いか?」
「さっぱり」
「相談させてくれ」
「そのまえに死ぬよ?」
頭の上に乗っているウーニャーの不機嫌オーラが段々黒みを帯びてきている。
さすがにバーベキューのバイキング会場でレインボーブレスを吐かれると甚大な被害を出すため、
「よしよし」
頭から降ろして胸に抱き、ウーニャーの頭を撫でる。
「ウーニャー」
何とも心地良さげなウーニャーだった。
「ドラゴンは金になるんだがなぁ」
「七竜王に殺されるよ?」
これは当然の帰結だ。
ギュッとウーニャーを抱きしめる。
さてさて。
「というわけで交渉の余地が無いから諦めて」
「むぅ」
「パパ?」
「何?」
「殺していい?」
「だぁめ」
さすがにドラゴンブレスを吐かれるのは憚られる。
「良い性格してるな、そのドラゴン」
冒険者は苦笑した。
「あんまり挑発しないでくれる? 場合によっては甚大な被害が出るから」
「お子様ドラゴンでか?」
「ウーニャー……」
「怒らない怒らない」
よしよしとウーニャーの頭を撫でる。
「パパ」
「駄目」
そればっかりは。
「ウーニャー」
とりあえず気持ちは落ち着けたらしい。
冷静は心の鎮静剤だ。
肉をガジガジと噛んで残った鉄串を二本手に持つ。
「金貨二枚でどうだ?」
「バルス」
僕は手に持った鉄串を冒険者の両目に突き刺した。
いい加減鬱陶しい。
「目がぁ! 目がぁ!」
両目を押さえて絶望に沈む。
「コレに懲りたら自重してね」
聞かれてないだろうけどぼんやりと僕は云った。
「何をしてるんですか?」
「お兄様……」
フォトンとツナデが合流する。
「色々と業がねぇ」
他に言い様もない。
「そっちは?」
「口説かれました」
「右に同じく」
「結果は……」
聞くまでもないか。
なんだかダンジョンのモンスター以上に冒険者が敵に回っている気がする今日この頃……如何お過ごしでしょうか?