魔の国11
「陛下……クランゼ、まかり越してございます」
そう言ってクランゼと呼ばれる魔術師はバミューダ王にひれ伏した。
クランゼは燈色の髪を持った若い女性だった。
煌びやかな衣服にマントをつけている。
マントをつけているということの一点のみで魔術師と解る。
さらに言えばフォトンとの会話によって彼女……クランゼが国際魔術学院の教授をしていることも知っている。
そんなクランゼにバミューダ王は恐縮した。
「すまぬなクランゼ。魔術の研鑽を割いてまで召喚してしまい……」
「お気になさらず。陛下あってのクランゼでございます」
真顔でクランゼはそう言った。
「陛下……それで一体如何なるご指示でしょう?」
「ああ、こちら……」
とバミューダ王はフォトンを示した。
「セブンゾールのフォトン様にあらせられる。そしてその隣が……」
と僕を指して、
「フォトン様のバーサスの騎士……マサムネ様だ」
そんな大層な紹介をする。
「セブンゾール……!」
クランゼがフォトンを見て驚愕する。
フォトンはというと、
「あはは」
と愛想笑いをして頬をポリポリと掻くのだった。
「何ゆえ魔の国に? たしか光の国の宮廷魔術師であらせられなかったでしょうか?」
「ま、籠の中に閉じこもるのも飽きただけですよ」
肩をすくめてみせるフォトン。
「ともあれ……」
とフォトンは話を切り替える。
「国際魔術学院の教授たるクランゼに会えて光栄です」
そう言うフォトンに、
「何を仰います」
クランゼが恐縮する。
「セブンゾールたるフォトン様に面会できて光栄なのはこちらの方です」
「そんな大した存在ではありませんよ」
謙虚なフォトンに、
「無限復元を会得した一点だけにおいてもフォトン様は尊敬に値します」
キッパリとクランゼは言った。
「それは……どうも……」
複雑そうに返すフォトンだった。
「それで、フォトン様におかれましては不肖のこの身に如何様な用でございましょう?」
「クランゼに魔術を教わりたいと思っていまして」
「セブンゾールのフォトン様に対してわたくし如きがお教えすることなど無いと存じますが……」
「私にではありません」
「では?」
「マサムネ様にご教授願いたいのです」
「しかしてマサムネ様はフォトン様のバーサスの騎士であらせられます。騎士が魔術とは……いったい如何様な理由で?」
「それについては学院で話しましょう」
「了解しました」
頷くクランゼ。
「陛下……ではわたくしはフォトン様とマサムネ様を学院への待遇を良しとさせるために召喚されたので?」
「そういうことだ」
バミューダ王は首肯した。
「了解しました」
平伏して、
「責任を持ってフォトン様たちを歓迎させてもらいます」
クランゼはそう言うのだった。
「では破却のクランゼ……」
とこれはフォトン。
「空間破却を見せてもらっていいですか?」
「それをフォトン様が望むのならば」
「望みます」
「ではそういたしましょう」
簡潔にクランゼは答える。
「陛下……」
「なんだ?」
「では失礼しても?」
「ああ」
バミューダ王は頷く。
「フォトン様を学院に連れていってやれ」
「了解しました」
クランゼもまた頷いて、僕とフォトンに歩み寄る。
「ではフォトン様……」
とクランゼは手を差し出す。
その手を握るフォトン。
「それからマサムネ様……」
クランゼは僕に対しても手を差し出した。
その手を握る僕。
「では参りましょうか」
両手に僕とフォトンの手を握ってクランゼは言う。
「どうも」
「お願いします」
そんな僕とフォトンに柔和な笑みを浮かべて、
「では参ります」
そしてクランゼは呪文を唱える。
「我は空間を侵食する者。我は空間を蹂躙する者。我は空間を凌辱する者。その闇において宣言高らかに命ず。空間破却……!」
そんなクランゼの呪文の後、
「……っ!」
僕は空間の歪みに対して酩酊感を覚えた。
空間破却。
それがどんな魔術かは正確にはわからないけど、それでも一つわかることはある。
僕とフォトンとクランゼはワープしたのだ。
魔の国の王城から国際魔術学院に。
それはレンガ造りの古臭い部屋に転移したことで察せられるのだった。