鉄の国03
「ウーニャー……」
とウーニャーがドラゴン姿でベッドをゴロゴロ。
それを愛と慈しみで微笑みながら観察して、僕は薬効煙に火を点けた。
スーッと吸ってフーッと吐く。
とりあえず都市で一番豪奢なホテルに泊まった。
払ったのは金庫番のフォトンとツナデ。
というか食事と喫茶と宿代くらいしか使い道がないため、どうしても収入に支出が追いつかない。
山賊から財産を譲り受けたり、善意の商人から報酬をもらったりしているので、増えてはいるけど減ってはいないと云うことらしい。
まぁ資産に於いて増えることと減ることが並列するなら世話無いけど。
とりあえず個室でウーニャーと雑談しながら薬効煙を吸っていると、
「もし」
コンコンと扉をノックされた。
無論オートロックなぞ存在しないので、
「どうぞ」
と言葉で招く。
鍵はついているけど施錠はしていない。
別に必要ないしね。
ホテルマンが現われた。
「マサムネ様にお客様がいらっしゃっています。お取り次ぎは如何致しましょう?」
「通していいよ。ていうか僕に?」
フォトンならわかるけど……何ゆえ僕なのだろう?
しばし思案していると、
「それでは」
とホテルマンが客人を通した。
現われたのは亜人だった。
とはいっても神の憎悪の肩代わり……ではない。
イナフと同じ意味での亜人。
イナフは人とエルフのハーフで、
「耳無し」
と蔑まれていたけど。
とまれ部屋に入ってきた亜人は背の低い老人だった。
ヒゲを生やして筋肉モリモリの翁。
これだけ聞けば嫌な想像に駆られるが、身長自体は少年相応。
「ウーニャー……ドワーフ……?」
ウーニャーが正解。
ドワーフと呼ばれる亜人だった。
「夜分に失礼」
ドワーフは丁寧に腰を折って一礼。
「何か用?」
仮にも最上級のホテルだ。
礼を欠いたり不躾の用ならホテルマンの時点で却下されているだろう。
「何か……面倒事でも?」
「然り」
ドワーフは頷いた。
結局鉄の国でもトラブルか。
何かに愛されているのか……。
それとも……。
まぁ考えてもしょうがない。
「私の名はアイゼンという。ワーストカラミティ……マサムネ殿のご尊顔を拝謁して恐縮の至り」
大した面貌でもないけどね。
「で、如何な用で?」
「依頼したい」
とドワーフことアイゼンさん。
「受けてくださるだろうか?」
「内容による」
至極真っ当だ。
「鉄の国についての理解は?」
「あまり無いね」
正直に話す。
薬効煙を吸って吐く。
「私は直属鍛冶師なのだが」
「どこの直属?」
「無論、鉄の国の王」
そういえばフィクションでもドワーフって鍛冶職だよね。
さすが巫女。
「現在、火急の時である」
「大変ですね」
それだけ。
プカーッと輪っか状の煙を吐く。
「鉄の国の繁栄祭は知っておられるか」
「知っておられません」
ジャンヌくらいだろう。
知ってるのは。
「鉄の国で百年に一度行なわれる祭りであり、王族並びに国民の繁栄を願って催される」
百年に一度ときたか。
「そこで陛下に捧げるため我らドワーフの精鋭が聖剣を打つ」
オチが読めちゃったな。
「そこでマサムネ殿。ダンジョンに潜っていただきたい」
「聖剣の材料を拾ってこいと?」
「それもあるがそれだけではない」
「他に何か?」
「傭兵たちと共にダンジョンに潜り未だ帰還しない王子イオル様の救出を行なってほしい」
「あー……」
プカーと煙を吐く。
「何で王族自ら?」
「鉄の国の王族は自ら聖剣の材料を持ち帰らねばならないという風習があるのです。聖剣を打つのは鍛冶師でも、その材料となる白金のオレイカルコスは王子が直接手に入れてこそ自身の聖剣足り得る。理解して貰えないでしょうがその様なしきたりです」
「うん。理解できない」
正直者の僕だった。
「で、繁栄祭までのダンジョンから王子様とオレイカルコスを拾ってこい……と」
「左様であります」
オレイカルコスね。