武の国25
一晩寝て次の日。
僕はヒロインたちを連れて団子茶屋に入った。
今日は御前試合の準決勝。
とは言っても昼過ぎに執り行われるため、午前中は暇潰し。
結果として団子茶屋である。
天気がどーの。
慕情がどーの。
剣道がどーの。
そんな感じ。
そしてもむもむと団子を食べる。
口直しに茶を飲む。
そこに、
「おうコテツか」
そんな声が響いた。
コテツ。
鬼の国で拾った男の娘の名だ。
声の主を見やる。
中々の武威を発する侍だった。
「死んだのかと思ったぜ」
ケラケラと武士が笑う。
それだけで大体察せる。
要するにコテツを鬼の国に導いた輩なのだろうと。
「おや、そっちは」
と武士は僕を見る。
「今日の俺の相手か」
「…………」
特に敵方に勘案していないため知らないのも必然だ。
「そうなので?」
「だぁな」
頷かれる。
「昨日の試合は見事だったな。どんな手品だ?」
「タネを明かしたら仕事が干上がるから」
「だぁな」
やはり頷かれる。
「コテツを連れているということは保護したのか?」
「他にある?」
「まぁ小鬼殺しが生きて戻ってくるのはありえんしな」
ご尤も。
「あう……」
とコテツが呻く。
「はいそこ」
チョップ。
「一々落ち込まない」
「でも師匠……」
「武の国とて大鬼を殺せない人間が大半でしょ」
「そうでありますが……」
「小鬼を殺せるだけでも戦力としては十全だよ」
クシャッと黒髪を撫でる。
「師匠ね」
武士が皮肉ってきた。
「たしかに昨日の試合を見れば納得できるけどよ」
「恐縮だね」
いっそ皮肉を言った。
これでお相子だ。
「店長。何時もの」
武士は手際よく注文を述べ立てる。
「はいよ」
と茶屋の主は答えに応じた。
「とりあえず」
とは武士の言。
「ここは奢らせて貰うぜ」
「いいの?」
素で聞く僕。
「幸運にも金には困ってなくてな」
「敵方に施しを?」
「別に殺し合いをしようってんじゃないんだ。これくらいいいだろ?」
「まぁならいいけど」
とりあえず茶屋の代金は武士持ちらしい。
僕は追加の団子を食べる。
一口。
「…………」
それで沈黙。
「どしたい?」
まぁ。
何だな。
「お前様」
「何だ?」
僕は食べた団子を武士に差し出した。
「奢ってもらってばっかりも悪いからこの団子を食べい」
「要らねえよ」
「では織姫に無粋を進言してもいいんだね?」
「なんのことだ?」
「わかってないならこっちの好意を無下にはするねい」
「団子なら自分で注文するぞ」
「いいから食え」
ズイと自身の団子を武士の口元に持っていく。
「いらん」
「ということはわかっているんだな?」
「何のことだ?」
そのすっ惚けがひたすら不快だった。
「言っておくけど僕に毒は通じないよ」
「っ!」
「さて」
僕は店主の方を見る。
「店の看板大暴落と一人の武士の背後を守るのとを天秤にかけられる?」
毒入り団子をもむもむ食べながら僕は追求する。
「場合によっては織姫直々に介錯かもね」
そう付け加える。
店主に他の選択肢はなかったろう。
「で、あんたはどうなんだ?」
武士に問うと、
「何のことやら」
とすっ惚けられた。
まぁ白状すれば死ぬだけだろうからこれはしょうがないんだけど。