武の国21
とりあえず、
「お風呂千両だねぇ」
客用の間でくつろぎ、風呂に入る僕だった。
「ウーニャー」
とウーニャー。
こゆところは愛らしい。
とりあえず明日と明後日と明明後日で御前試合は予定を組まされているらしい。
トーナメント形式。
武器は木製のモノ。
一通り拝見した。
太刀。
野太刀。
棍。
薙刀。
そんな感じ。
勝利条件は相手に負けを認めさせるか戦闘続行を不能にさせるか。
以上。
八人でトーナメントだから三回勝てば優勝だ。
もっとも相手を知らない。
大鬼の強さから逆説的な把握は出来るけど、その場合は少し信じ難い。
人を逸脱していることの証明だ。
僕に言われたくもないだろうけど。
「なんだかなぁ」
「ウーニャー?」
ウーニャーがこっちを見てきた。
「何か不安?」
「というより気疲れだね」
ウーニャーの虹色の髪を撫でる。
「パパは強いから大丈夫」
「真竜王が言うと心強いね」
「ウーニャーのバーサスだし」
ほとんど成り行きだけど
沈黙は金だ。
「だいたい勝ったところで……ねぇ」
「ウーニャー。立身出世」
「根無し草には一銭の得にもならないよ」
そうなのである。
「ウーニャー……」
とりあえず理解は得られたらしい。
「ウーニャーの竜騎士も?」
「ウーニャーは可愛いから例外」
「ウーニャー!」
頬を僕の胸板にスリスリと擦らせるウーニャーだった。
可愛いなぁ。
「ま、明日は明日の風が吹く……だね」
「ウーニャー?」
「なんでもない」
「パパが時折わかんない」
「ミステリアスを信条としているもんで」
フォトンやツナデなら理解しただろうけどね。
詮方なきこと。
「とりあえず明日の試合で具合を見るほか無いね」
「パパだって大鬼殺しだよ?」
「魔術有りきならね」
「遁術で良いじゃん」
「どっちも不正らしいからなぁ」
武器一つで大鬼以上の強さを持つ人間に立ち向かえ、と。
「なんの嫌がらせだ?」
素直にそう思う。
「心配?」
「というほど懸っているわけでもないけど」
相手に覚えがあるように僕にも覚えはある。
「最悪フォトンもいるしね」
「ウーニャー……」
むしろウーニャーが心配らしい。
「パパに痛い思いして欲しくない」
「ありがと」
頭を撫でる。
「ウーニャーは優しいね」
「パパにだけ」
「だからいいんだけど」
苦笑。
気が紛れたのは事実だ。
別段事態が変わったわけでもないけどウーニャーの心は真摯で曇りない。
それが嬉しかった。
とりあえず湯船に浸って体を温め、それから部屋に戻る。
手際よく布団が敷いてある。
想像創造。
世界宣言。
「木を以て命ず。薬効煙」
「火を以て命ず。ファイヤー」
口にくわえた薬効煙に火を点ける。
煙を吸って吐いた。
木製の窓辺から月が見える。
餅を付くウサギ。
蟹や美女の横顔。
いいんだけどさ。
「パパは月が好きなの?」
「風流ではあるよね」
「ふーりゅー?」
「興味深いと云いますか」
月は天の魔法陣。
夜を支配する明かり。
そして狂気の象徴。
何より日本人にとっては永遠のシンボルだ。
ウーニャーに理解させる気も無いけど。
夜気に向かってフーッと薬煙を吹いた。
「…………」
煙は攪拌して消える。
スーッと薬効煙を吸う。
「ウーニャー」
「なぁに?」
「頑張ってね?」
任せなさい。