武の国17
馬車には位があるらしい。
僕を乗せた馬車は最上級とのこと。
途中で寄った村では歓待を受けた。
米と味噌汁。
魚の干物。
なんだか武の国に永住しても良い気がした。
「お侍様!」
村人の一人が武士を呼ぶ。
「何でしょうか?」
付き合いが良い。
「ブラッディレインがこの村に!」
「っ!」
絶句したのは無論フォトン。
僕としては、
「まぁそうなるよね」
と云った類。
「今は何処に?」
「分かり申しません」
単純な話ではある。
見た人間を虐殺して生き返らせる逸れ者。
ここで足跡を辿れるのなら大きな成果と云えるだろう。
「どういった殺され方をしましたか?」
フォトンが問う。
「雷様ですたい」
そんな村人。
「ふむ」
と僕。
「ウーニャー?」
とウーニャー。
まぁウーニャーの気持ちもわからないではない。
基本的に都市伝説。
噂の元の源流。
血の雨。
転じてブラッディレイン。
正確にはラセンと云うらしい。
フォトンの師匠で虐殺と救済の申し子。
さてどうしたものか。
ディバインストライク。
かの不条理魔術だろう。
雷様と云うくらいであるから。
半径十キロメートルに加虐な雷電を放出する。
そうフォトンに聞いた覚えがある。
フィリアとの戦いで一端は見たけど。
「マサムネちゃん」
と当のフィリア。
「やっぱり」
「だろうね」
阿吽の呼吸。
「お兄様?」
「何でしょう?」
ツナデの刺すような視線がいただけない。
「やっぱり……」
「それ以上は空想だよ」
掣肘する。
「さて」
とりあえずわかっているのはラセンが『剣の国』を目指していること。
そして、ならば、
「僕らの目標も其処」
と相成る。
「とりあえず死者は居ないんでしょ?」
「それはそうですが……」
とりあえず足跡は辿れている。
ならばそれで、
「良し」
だ。
「警戒はします。ただし過敏になる必要はありません」
武士はそう村人を安心させていた。
「マサムネ様」
フォトンが愛おしげに云う。
「巻き込んで申し訳ありません」
「気にしないで」
サクリと僕。
「世話になってるのはこっちだし」
その通りだ。
「けれど師匠は……」
「危ない?」
「であります」
それは熟知してるけどなぁ。
「…………」
それからフォトンは思惑にふけた。
何やら思うところがあるらしい。
好きなだけ悩めばいい。
僕のフォロー外だ。
「ウーニャー!」
頭上のウーニャーが尻尾ペシペシ。
「どうするの?」
「どうもしない」
というか出来ない。
既に此処にラセンが居ない以上、
「影を踏む」
程度が精々だ。
結果論として、
「剣の国に行く」
が最終目標だろうけど。
その剣の国とやらも何処にあるのか?
まこと目先真っ暗。
別に構いはしないんだけど。
フォトンが悩むのも無理はない。
何を言える立場でも無いけどね。
「六根清浄」
印を切る僕だった。