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魔の国09

 そうこうして馬車に揺られていると、いともあっさりと僕たちは王都に着いた。


 それから雨ゆえか活気のない市場を通り抜けて王城へと入る。


 その途中で知ったのだけど、どうやら貴族の馬車が通る時には平民は平伏せねばならないらしかった。


 奇妙な文化……と思うのは僕がこの世界より進んだ世界から来ているからか。


 まぁあちらの世界でも労働者は上流階級に平伏せねばならない。


 そういう意味では人類は進歩していない……あるいはできないのかもしれないな……なーんて不要に悩んでみたりして。


 貴族が上流階級に代わっただけと考えればどちらにせよ奴隷と労働者の違いなどそこまで無いだろうとも思える。


 閑話休題。


 馬車は難なく城壁に設置された門を抜け……おそらくオルトの爺さんの馬車というのがきいているのだろう……魔の国の王城の領域へと入っていった。


 そして護衛の騎士と馬車の御者が、


「フォトン様。マサムネ様。どうぞ傘の中にお入りください」


 傘をさしてそう言うのだった。


 そういえば傘というものは昔は権力の象徴で貴族にとっては下々にささせるものだと聞いたことはある。


 この世界が中世ヨーロッパに習ったのだとしたら、この具合にも納得がいく。


「傘くらい自分で持てますよ?」


 僕がそう答えると、


「それはいけません。オルトヴィーン様のお客様にそんな不義理は出来ません故」


 真面目くさって護衛が答えた。


 やれやれ。


 僕は肩をすくめて傘の中に入る。


 そして王城へと向かう。


 屋根のある玄関に入ったところで傘は閉じられた。


「案外簡単に魔の国の王城に来れたね」


 フォトンに向けてそう言うと、


「まぁオルトヴィーン卿の客ならここまでは入れるでしょうね」


 そんな答えが返ってきた。


「何か入用はないでしょうか?」


 これは馬車の護衛の言葉だ。


「……ありませんね。ここまで運んでくださってありがとうございます。帰りは道中お気をつけて」


「恐縮です。では」


 答えて馬車の御者と護衛は馬車に乗って退散した。


 僕とフォトンを魔の国の王城に届けた時点で彼らのミッションはコンプリートされたのである。


 他には何もないと答えたフォトンに対して、馬車を退散させたのはソレが故だろう。


 そうして雨の中、革製のカッパを着た御者が護衛を乗せた馬車を操って城壁の中から外へと出ていく。


 オルトヴィーンの統治する要塞都市へと帰るのだろう。


 それを見送った後、


「何用か」


 と僕たちは王城の門番に声をかけられた。


「バミューダ王への謁見を希望します。こちらがオルトヴィーン卿の口添えです」


 フォトンはオルトの爺さんにもらった封筒を差し出す。


 それを受け取った門番は、


「確かにオルトヴィーン卿の印があるな」


 一人ごちるようにそう言って、


「客間まで案内する。この書類を上に吟味させた後に謁見の可か不可かを連絡する」


 僕とフォトンを城内に入れた。


 そして王城の客間へと案内された。


 紅茶を出されて一服しながら僕はフォトンに言う。


「当然と言えば当然だけどやっぱり素直に謁見は出来ないんだね」


「しょうがないですよ……こればっかりは」


 紅茶の三杯目を王城の使用人求めようとしたところで、先の騎士が現れた。


 豪奢な鎧にマントをひるがえす王属騎士だ。


「陛下が謁見を許された。ついて来い」


 それだけ言って騎士は身をひるがえす。


 僕とフォトンは慌てて騎士についていった。


 ついていった先に待っていたのは謁見の間。


 玉座に座るバミューダとそを守るための居並ぶ王属騎士たちに威圧感を覚えながら僕たちは部屋に招かれた。


「ひれ伏せぇ!」


 と騎士の一人が激昂すると同時に王属騎士の皆々様はバミューダに平伏した。


 立っているのは僕とフォトンだけだった。


 騎士の一人が叫ぶ。


「何をしているか! 陛下の御前であるぞ! ひれ伏せ!」


「別に遠慮する必要は感じませんし……」


「右に同じく」


 僕とフォトンは不敬を貫いた。


「殺されたいらしいな……」


 騎士の一人が立ち上がって剣を抜く。


「止めよ」


 とこれはバミューダ。


「無限復元……セブンゾール……フォトン様とそのバーサスの騎士は真っ当なことをしているにすぎん。貴君らはこの謁見の間を血で汚すつもりか?」


「失礼しました陛下」


 そう言って剣を抜いた騎士は剣を収めてバミューダに平伏するのだった。


 そしてフォトンが言う。


「バミューダ陛下。まずは謁見を通していただきありがとうございます」


「オルトヴィーンの紹介とあっては無下にもできるまい。それで? 私に何用か?」


「要求は一つ。国際魔術学院の教授……破却のクランゼと示し合わせてもらいたいのです」


「何ゆえ?」


「魔術についての理解と上達のため……と言えば満足ですか?」


「セブンゾールが今更誰かに教わることもないと思うのだが……何か理由が?」


「それは私たちとクランゼの問題です」


「然りだな。よかろう。クランゼには話しを通しておく。ああ、それとは別件だがフォトン……魔の国の宮廷魔術師にならぬか? 当然バーサスの騎士たるそちらのマサムネも一緒に王属騎士としようじゃあないか」


「提案痛み入ります。しかして私は光の国の財産でありますれば、国際問題に発展しかねません。光の国と戦争していいというのならその限りではありませんが」


「なるほどな」


「くわえて言うならば今の私たちは逃亡者です。賞金首になってもおかしくない状況です。いえ、おそらくもうすぐ賞金首として大陸中に配布されるでしょう。なればこそ陛下の御恩情を賜るわけにはまいりません」


「理解した。ともあれクランゼの件はこちらで話を通しておく。国際魔術学院に行くのであろう?」


「はい。少し事情がありまして」


 フォトンはバミューダの言葉に頷く。


「では今晩はこの城に泊まってゆっくりしていくがよい。その間にクランゼとの交渉を進めよう」


「ありがとうございます」


 そう言って平伏するフォトンだった。


 ついでに僕も平伏する。


「ありがとうございます」


「なに……話を通すだけだ。面倒なことではない」


 カラカラとバミューダは笑うのだった。


 そんなこんなで僕とフォトンは今日は城に泊まり、翌日に国際魔術学院に顔を出しクランゼに面を通すことになったのだった。


 国際魔術学院……か。


 聞くだに胡散臭い名前だけど、僕のいた世界に無い技術を研鑽しているとなれば興味も沸こうというものだ。


 そういうわけで僕とフォトンは魔の国の王城の……しかも王自らの客分として扱われることになったのだった。


 僕が驚いたのはそれを可能としたフォトンの権力にこそあった。


 無限復元といいセブンゾールといい何者なんだフォトンは……。

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