武の国15
「うーあー」
もむもむ。
和食を食べながら僕は眠気と戦っていた。
宿は高級のソレ。
食事も万事豪華だ。
つやつやの白米。
高級の燻製。
ダシの利いた味噌汁。
海藻サラダ。
基本的にお客様万歳が手に取れる。
それをもそもそと食べていると、
「失礼」
と武士が話しかけてきた。
僕は米をもむもむ。
とりあえず無視の方向で。
味噌汁を飲む。
白味噌とイリコの香りが口内を幸せにする。
「虹色の竜を頭に乗せた御仁……マサムネ様ですよね?」
「ですねー」
今更だ。
燻製を囓って白米を放り込む。
うむ。
良い出来。
「ウーニャー」
と頭上のウーニャー。
「パパに果たし合い?」
「いえ、使いっ走りであります」
武士はそう云った。
「…………」
僕は朝食をもむもむと食べるばかり。
「聞くにこの都市の侍を悉く切り伏せたとか」
まぁ、
「百人切り」
なんて二つ名が付いたくらいだしね。
「そこで提案ですが」
ちなみに朝食は食べ終えた。
今は煎茶を飲んでいる。
「何でっしゃろ?」
「織姫様の御前試合に招きたいのです」
「…………」
何度も言うけど今更だ。
元よりフォトンに勧められてその気になっていたのだから。
「とすると」
「ええ。使いっ走りです」
「首都からここまで?」
「伝達機がありますので」
なるほどね。
そんなモノも有ったね。
「というわけで高級馬車を用意させて貰いました」
武士は云う。
「是非とも首都に参じて貰えないでしょうか?」
「そのつもりだけど……」
護衛の承認に視線をやる。
「契約中」
ですよねー。
「別に迎えに来ずとも御前試合にはエントリーするつもりだから」
「であれば歓待を受けてくださいませ」
「商人の護衛がクエスト故」
「では商人の馬車を買い取りましょう」
「本当か?」
商人が食いついた。
「ええ」
コックリと武士は頷く。
「金銭は惜しみません。首都に着いたら新しい馬車を買っては如何?」
「そうさせて貰おう」
これで阻む物なし……か。
煎茶を飲み干して吐息。
とりあえず外に出ると豪奢な馬車が待っていた。
商人の馬車の二倍は広い車だ。
四頭立て。
「これを貰って良いか?」
商人は云う。
「構いませんよ」
使いの武士も云った。
「幾らだ?」
「首都に着けば不要なので、その時点を以て無償で渡すというのはどうでしょう?」
「無償なのか?」
「この程度の馬車なら首都では珍しく有りませんので」
武士は肩をすくめた。
そんなこんなで馬車に乗る。
「首都ねぇ?」
こっちから向かう気満々ではあったけど、まさか首都の方から招かれるとは。
「人生万事塞翁が馬」
そう云う問題でも無かろうけど。
それからパッカラパッカラと馬車は走り出す。
僕たちは広い車内でくつろいだ。
別段焦る旅でも無い。
であればこの程度のサービスは範囲の内だろう。
とはいえ御前試合に僕をね。
あっちからの申し出となれば何かしら悪意を感じるんだけど。
三十六煩悩。
気にしてもしょうがないのは……ま、言わずともわかる。
百人切りのお出迎えは都市に広く伝わり伝説となりました。
めでたしめでたし。