武の国13
「立ち合えぃ!」
刀をスラリと抜いて武士が言う。
未だ都市の中。
商人の都合が付くまではこの都市に滞在するんだけど、僕が護衛していると騒がしくなり商売にならなくなるとのこと。
別に僕のせいじゃないんだけど、商売は繁盛した方が護衛としても敵うだろう。
そんなこんなでウーニャーを頭に乗せて僕は都市を歩いていた。
そこで先述の言葉ですよ。
「貴様の首を貰い受ける!」
「ですかー」
「ウーニャー……」
ところで僕はイメチェンしている。
スーツは預けて着物を纏う。
ついでに日本刀を腰に差していた。
超振動兼超高熱刀……ではない。
野太刀という点では似通った形だけどね。
何処にでもある普遍的な秋水だ。
閑話休題。
「面倒だから却下して良い?」
「賞金首が選り好みできる立場か!」
ごもっとも。
「ふ」
スラリと剣を抜く。
筋肉を弛緩させ制圏を拡大。
刀は脱力の果てにダラリと地面を切っていた。
陰流でいうところの無形の位。
もっとも僕の剣はそれより型が古いけど。
「いざ参る」
蜻蛉の構え。
示現流……がこの世界にあるかはわからないけど相手の剣はほぼ同様だ。
二の太刀要らずの一撃必殺。
当たればだけどね。
「フッ!」
武士が刀を振るってきた。
そこそこの速度。
が、剣の間合いに僕はいなかった。
零距離。
「速――」
武士の驚愕はこの際隙だ。
「…………まだやる?」
僕は刀を零距離で武士の首に添えていた。
「そこから振り切れるのか?」
「試してみるかい?」
挑発に挑発で返す。
少なくとも袈裟切りが封じられた以上、地の理はこちらにある。
「参った」
素直なのは良いことだ。
「中々だったよ?」
「勝者の慰みは武士の恥だ」
「そりゃ失礼を」
そんな感じ。
武の国の都市。
ソにおける僕の名は急速に広まった。
黒髪黒眼の野太刀使い。
金貨二十枚の賞金首。
中鬼殺しさえ及ばない剣の理の持ち主。
「ウーニャー。パパ大人気」
「嬉しくないけどね」
頭に乗っているウーニャーが尻尾で僕の後頭部をペシペシ。
ある意味何より硬い兜代わりだ。
光闇木火土金水の属性を弾く真竜王ウーニャーの鱗は日本刀程度ではかすり傷一つさえつかないだろう。
ダイヤより硬い。
というかダイヤは硬さで良く例に出されるけど、ダイヤの硬度は、
「引っ掻き傷の付きにくさ」
という意味合いであって物理的衝撃の耐久度とは無関係であることを補足する。
劈開の性質を持っているからむしろ強力な衝撃には弱い方だ。
昔はこれを応用した詐欺が罷り通っていたけど、この話を広げる必要も無いため割愛。
とりあえず和服に帯刀という武士姿にウーニャーという兜の緒を締めて僕は団子茶屋の暖簾を潜った。
注文して白玉と茶を味わう。
こういうところは武の国に来て良かったといった感じだ。
日本文化万歳。
玉露を飲んでポヤポヤしていると、
「頭の竜……」
「まさか」
「これを見ろ」
そんな感じ。
茶屋でも僕は有名人らしい。
知ったこっちゃござんせんけど。
「ウーニャー」
ウーニャーの声が固かった。
「大丈夫」
僕としては気楽なモノだ。
白玉をあぐあぐ。
玉露でホッと。
「マサムネか?」
茶屋の客の一人が声を掛けた。
「ですが」
茶を飲みながら僕。
「表に出ろ」
まぁそうなるよね。
「階位は?」
「中鬼殺しだ」
「できれば大鬼殺しになってから挑んできて欲しかったんだけど……」
「選り好みできる立場か」
先にも言われたね。
「せめて茶の時間くらいゆっくりさせてよ」
「最後のソレだ。しかと味わえ」
全くだ。