武の国10
とりあえず都市でアレコレしていると、
「賞金首のマサムネ」
の話は風のように伝播する。
武士にもルールがあるらしい。
正々堂々。
魔術禁止。
敵の選択。
……等々。
僕が金貨二十枚の賞金首でも寝首を掻こうとしない辺り色々と残念。
当人らが満足ならこっちから進言することもないけど。
で、とりあえず商人はこの都市で商売に勤しんでいた。
護衛ではあれど僕が傍に居れば面倒だろう。
そんなわけで自由行動と相成った。
とすると今度はヒロインの思惑が重なるわけで、
「……憂き世の業か」
となるわけだ。
とりあえず順番にデートと相成る。
初手はジャンヌだった。
「よろしく御願いしますマサムネ様」
丁寧に一礼するジャンヌ。
赤い髪と瞳。
炎を連想させるが、もうちょい事態はややこしい。
別に良いけどね。
「マサムネ様はお強いですね」
「ジャンヌに言われるとは思わなかった」
世界宣言も無しに灼熱の魔術を操る逸材。
それがジャンヌだ。
「けれども武の国では……」
「別に良いんじゃない?」
型破りは一種の芸術だ。
「ですか」
「です」
焼き鳥をあぐあぐ。
そんなこんなで市場を巡っていると、
「マサムネ殿!」
声を掛けられた。
和服。
帯刀。
言わずもがな。
「我と立ち合え」
「階位は?」
「小鬼殺しだ」
「却下」
嘆息。
「何ゆえだ?」
「役者不足」
「我を侮るか!」
「せめて大鬼殺しになってから挑んできてね」
だいたい武の国でのこういう勧誘はこんな感じで断っている。
既に中鬼殺しを上回っているのである。
であれば大鬼殺しくらいの階位じゃないとこちらとしても応対の無駄だ。
「むぅ」
と唸る武士。
無念らしい。
いいんだけどさ。
「いいんですか?」
とはジャンヌ。
「時間の無駄だし」
というと失礼だろうか?
実際にその通りなのだから他に言い様も無いけど。
「ウーニャー!」
と頭部に乗っているウーニャーも肯定する。
尻尾ペシペシ。
落ち着くね。
「パパは強いから!」
「そこに異論はありませんが……」
ジャンヌも思ってはくれているようだ。
「ありがと」
くしゃくしゃと赤い髪を撫でる。
「あう……」
と頬まで赤くするのだった。
心底、
「可愛い」
と思える。
そしてそれを口にすると、
「ふえあ!」
とさらに紅潮するジャンヌであった。
「にゃはは」
笑う。
「悪戯が過ぎます」
「まぁ人を弄るのが楽しいのは人間の業だね」
率直に言う。
そう云う問題でもなかろうけど。
「マサムネ様は……」
何よ?
「何でもありません」
拗ねたようにそっぽを向く。
それだけで言いたいことを察する僕。
表情筋を読むに、
「口を挟むのも憂慮される」
関連の事情だと手に取れた。
まこと乙女心は複雑怪奇だ。
わかっていて、なお無視する僕は大鬼以上にタチの悪い鬼かも知れなかった。
天邪鬼。
字面だけ見るなら途方も無い単語の合わせ技だけど。
天なる邪な鬼って……。