表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
312/512

武の国09


 大きめの都市であるためそこかしこが賑やかだ。


 蕎麦屋もそんな大通りにあった。


 僕が大通りに立っている。


 相対するように武士。


 注目の的だった。


 どうやら武士同士の立ち合いは武の国にとってのイベントらしい。


 僕は武士じゃないけど。


 さてどうしたものか。


「刀はどうする?」


 武士の方が尋ねてきた。


 スーツ姿で和刀を持っていないのだから必然の言葉だ。


 立ち合い。


 要するに正々堂々。


「しょうがない」


 僕は想像創造をした後、世界に宣言した。


「金を以て命ず。クナイ」


 片手にクナイが握られる。


 槍から長柄を取り払ったような武器だ。


 忍者の基本でもある。


 短刀の類と思えば武器ではあるだろう。


「魔術……!」


 戦慄する武士。


「立ち合いで使う気じゃあるまいな?」


「使いたいけど駄目?」


「武の国の通念に従え」


「へぇへ」


 嘆息。


 クナイを構える。


 武士も刀を正眼に構えて対峙した。


「初めの合図は?」


「両者構えた時点で始まっている」


 さいでっか。


「参る」


 宣言して武士が動いた。


 間合いが詰められる。


 刺突。


 喉。


 そう思った瞬間、


「…………」


 半身ずらして紙一重で避ける。


 刀が撥ねるように軌道を変えた。


 僕の首元に吸い込まれる太刀筋。


 クナイで受ける。


 そのまま滑るように刀身をなぞってクナイが武士を襲う。


 紙一重で避けられる。


 刺突からの斬撃。


 剣に無理をさせたにしては体勢の立て直しが速い。


 なるほど武士だ。


 クナイをくるくる回しながら僕は尋ねる。


「ところでお手前の階位は?」


「中鬼殺しだ」


「でっか」


 まぁコテツよりは動ける。


 基本的にトロールや吸血鬼の類と武器一つで立ち向かったこと記憶が無い。


 そんなことをしなくとも忍術と魔術があれば事足りた。


 そういう意味ではソレらが御法度の武の国で中鬼殺しと相対するのは貴重だ。


 僕も体術には一家言あるけど、それは武士も同様だろう。


 中鬼すら剣一本で殺しきる。


 それは特別な意味を持つ。


 何せ一般人は小鬼すら殺せないのだから。


 ゴブリンや餓鬼がかろうじて殺せるだけでも特筆に値する。


 クナイを構える。


 今度は僕から間合いを詰めた。


 身を低くして疾駆。


 高速で迫るところに斬撃が襲う。


 クナイで弾いて、開いた片手が肘打ちを放つ。


 退かれた。


 が、間合いはそのまま。


 退かれた分だけ間合いを詰めたのだ。


 こうなると刀の存在意義が無い。


 僕はクナイを振るう。


 鍔で受け止められた。


「っ」


 判断が的確だ。


 もっとも自動的に体は次の対処に反応したけど。


 鍔に防がれたクナイ。


 もう片方の空いている手が掌底を放っていた。


 ドクンと気が人体に伝わる。


 波紋が肉体を軋ませて、内臓に疾患を及ぼす。


 結果、


「ゲハッ!」


 武士は呼吸を逆流させた。


 付き合う必要も無いけど。


 僕はクナイで武士の刀に干渉すると巻き技を行使する。


 武士の手元から刀がすっぽ抜けた。


 それを握って首元に添える。


「続ける?」


 微笑んだら、


「……っ!」


 睨まれた。


 何か悪い事したかね?


 ともあれ決着だった。


「さすが師匠であります」


 とコテツ。


「中鬼殺しをこうもやすやすと」


「まぁこの程度なら」


 クナイを虚空に戻して肩をすくめる。


 衆人環視は盛り上がり、僕への挑戦者がひっきりなしだったけど、


「大鬼殺し以上じゃないと立ち合いは受けない」


 という一言で波は去った。


 中鬼殺しがこの程度なら別に増長でも無いだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ