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武の国08


 武の国を北上する。


 途中に都市があった。


 首都ほどではないにしても活気のある市場がある。


 食事と宿の面倒は商人に任せてあるため、とりあえず商人と一緒に食堂に入る。


 なんと蕎麦屋。


 嬉しさに表情もほころぶというモノだ。


 僕はカモ蕎麦を頼んでたぐる。


「ん。美味」


「異世界で蕎麦って……」


 ツナデも困惑しているらしい。


 とはいえ巫女が日本人なのだから武の国などの日本性はある種の必然だ。


 蕎麦をたぐって味わう。


 ダシの香りと蕎麦の香り。


 鴨肉を囓るとジュワッと旨みが口内に広がる。


 ここまで旅してきた甲斐があった。


 というと大げさだけど。


 それでも中世ヨーロッパ的な世界であるため日本文化は貴重だ。


「おかわり!」


 僕は商人の懐を勘案せずに追加注文。


「まいどっ」


 と蕎麦屋は天ざる蕎麦を用意してくれた。


 たぐる。


「お兄さん何処かで見た顔だね」


 とりあえず金を落とされて気を良くした店員が僕を見て言ってくる。


「賞金首じゃない?」


 平然と僕は答えた。


「賞金首……」


「結構な値が付いてるから一度見たら大体わかりそうなものだけど」


「名前は?」


「マサムネ」


「あー……」


 思い出したらしい。


「金貨二十枚の……」


「ソレ」


 蕎麦をたぐる。


「こりゃ蕎麦に毒でも盛るんだったね」


 店員はカラカラと気持ちよく笑った。


「もう遅い」


 当然冗談だ。


 それは共通している。


 基本的に客商売は第一義に信頼が必要だ。


「食堂から死者が出た」


 と噂されれば、それだけで致命的である。


 必然、賞金首の客だろうと誠実に対応する度量が求められる。


 信頼は金を積んでも得られないのだ。


 が、それはともあれ店員の声は大きかった。


 必要以上に。


「賞金首」


「マサムネ」


「金貨二十枚」


 この単語を聞いた武士が黙っているはずもない。


「貴様……賞金首のマサムネか」


 刀を携えた武士の一人が僕に話しかけてきた。


「さいです」


 否定はこの際無意味だろう。


 ところで賞金首の号令を発したのは光の国なんだけど、遠く離れた武の国でも換金に応じてくれるのだろうか?


 そんなことを思った。


 まさか生首を持って光の国まで徒歩で進むわけでもなし。


 金貨二十枚は大金だけど、こうまで距離が離れると手間というデメリットの方が金というメリットより大きい気がする。


 なんだかなぁ。


「私と立ち合え」


 そんな武士。


「不意打ちはしないの?」


 蕎麦をたぐりながら僕。


「武士としてそんな無様が出来るか」


 潔いけどアホでもある。


 まぁ矜持を得ない者を武士とは呼ばないんだろうけど。


「僕の生首を持っていって金に換える気?」


「他に何がある?」


 無いよね。


「とりあえず人生最後かも知れない蕎麦を食べ終わるまで待って」


「わかった」


 話は通じるらしい。


「師匠。立ち合うのでありますか?」


 コテツが茶を飲みながら言う。


「その通りだけど何かマズいの?」


「いえ……その……」


 むぐむぐと唇を揺らすコテツ。


「魔術は使えないでありますよ?」


「使えるけど?」


「いえ」


 むぐむぐ。


「可不可の問題ではなく武の国のルールとしてであります」


 武の国のルールと来たか。


「魔術は邪道で剣術のみが至高とされるのが武の国の通念でありますので」


「立ち合いで魔術を使っちゃいけないの?」


「はい」


 サクッと言われた。


「遁術は?」


「剣によらなければ不可かと」


「…………」


 蕎麦をたぐる。


「なんだかなぁ」


 天ぷらをサクリ。


「剣術のみって言われても……」


 こちとら夜討ち朝駆けが基本なんだけど。


 まぁいいか。


「…………」


 蕎麦湯を飲んで意識の切り替え。


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