武の国01
「やっぱりこういう時間だよ」
団子茶屋で茶を飲み団子を食べながら陽光を浴びてのほほん。
先までの鬼の国が殺伐としていたため文化の有り難さが身に染みる。
茶を飲んで、
「ほ」
と一息。
ここは武の国。
鬼の国と国境を接しており侍が闊歩する。
当然鬼の国から侵攻してくる鬼を国境沿いで留める戦力を保有しており、ある種の実力主義だ。
武の国という名前だけでもうね。
侍。
武士。
浪士。
そんな感じ。
鬼の国で保護したコテツも腰に和刀を差しており、それらしい格好だ。
男の娘であるが故に覇気は持っていないけど。
何でも魔術を潔しとせず、剣術だけで立身出世が決まるとのこと。
別に立身出世には興味が無いため、僕らには不要なルールだ。
団子をパクリ。
うん。
美味。
「でありまして師匠」
これはコテツ。
「何でがしょ?」
「御前試合に出てはくれませなんだか」
「御前試合って云うと?」
字面で大体わかるけど。
「大将軍閣下が姫君……織姫様の側近となるための試合であります」
「面倒」
返事はコンマ単位だった。
「でありますがあれほどの剣の冴えは……」
「基本的に武士道は持ち合わせてないからなぁ」
敵を殺すなら、
「遠くから傍観してのたうち回る様を楽しむ」
が忍の本道だ。
「見よう見まねの剣の術理は持ってるけど天剣だし」
「天剣?」
「あまつきつね……要するに天狗の剣。まぁこっちの世界で講義することでもないけどね」
「しかし身の振り方が既に常人ではありませんが」
「相応の修練は積んだしね」
家の都合で。
「剣は二の次……と?」
「まぁ二足のわらじの二足目ではある」
茶を一口。
「それで大鬼を勝る体術でありますか」
「あの程度ならツナデやイナフでも出来るよ」
「はあ」
ポカンとツナデとイナフを見やるコテツ。
「まぁあの程度なら」
とツナデ。
「イナフは見てないからなぁ」
団子を食べながらイナフ。
「とりあえず」
これは僕。
「コテツには負ける気しないでしょ?」
「それは」
「まあ」
ホケッとツナデとイナフは答えた。
「む」
とコテツ。
「さすがに女性に遅れはとらないであります」
「その発言が既に未熟の証明だね」
茶をおかわり。
緑茶だ。
「むぅ」
「なんなら宿が決まってから立ち合うと良い。勝てたらジャンピング土下座で謝罪するよ」
「承ったであります」
コテツは良いらしい。
ツナデとイナフは今更だ。
答えを聞くまでもない。
ところで武の国。
その最初の村はひなびた田舎といった感じ。
木造建築。
ニスの匂い。
い草の香り。
茶の芳香。
完全に時代後れの日本の風景である。
「もしかして和の国も近くにあったり?」
「文明の交流はありますが……」
離れてはいる……と。
白玉をパクつく。
「武の国とは違うの?」
「ここほど物騒ではないであります」
「ふむ」
「基本的に和の国との文化としての差別化は少し難しく、外交も明日の風次第。和の国が文化を発達させて、武の国が軍事力を発達させているでありますな」
シルクロードでもあるのだろうか?
「色々と事情がありまして」
難しい顔をされた。
「いいんだけど」
団子を食べて茶で流し、薬効煙で一服すると空が赤く染まった。
「じゃ、今日の宿を探そっか」
そういうことである。