鬼の国29
とりあえず大鬼退治と相成る。
付き合う必要は無い。
はずなんだけど……、
「何だかなぁ」
と云った様子。
コテツは愛らしく僕を観察していた。
「一挙手一投足が凄まじく洗練されているであります」
感嘆。
「まぁ色々とね」
嘆息。
「侍でありますか?」
「いや、忍」
「というと……」
首を傾げ、
「和の国出身でありますか?」
和の国……ねぇ?
大和の出身ではあるけど。
こちらでは意味が違うだろう。
「色々あるのよ」
他に言えない。
「何でも奇っ怪な術を使うとか」
「まぁ嘘じゃないけど」
実際に霧遁の術と透遁の術を常時展開しているのだから。
「ではこの濃い霧も師匠が?」
いつのまにかコテツの僕への呼称は師匠と相成っていた。
「便利でしょ?」
「あまり奇っ怪な技は推奨できないのでありますけど……」
聞くにコテツの出身は鬼の国の北にある武の国。
侍の国らしい。
そこでは魔術は侮蔑の対象で、剣術のみが賞賛に値するという。
「視界が狭いこと甚だしいね」
そんな論評。
「むぅ」
とコテツ。
「目的のためには手段を選ばない」
それが忍の鉄則だ。
その気になれば鋼糸から銃まで利用できるは利用する。
基本的に、
「手段に固執することを狭量だ」
という思想を出発点としているのだから。
「けれども師匠の体は勁が十全に練られていますが……」
「そりゃまぁ戦力が無きゃ安全に旅できないしね」
別にそのために鍛えたわけでもないのだけど、結果論としては慰み程度にもなる。
「ハーレムの皆様方も?」
「です」
と満場一致。
涙が止まりません。
「某の国では袖擦り合うもと云うのであります!」
それは多分巫女の影響だね。
「師匠」
「何じゃらほい?」
「某を鍛えて候」
「まぁいいけど。とりあえず状況が落ち着いたらね」
「状況でありますか?」
「鬼の国で修練を積んで疲労したところに鬼が襲ってきたら本末転倒でしょ?」
「ですな」
そこは理解が得られたらしい。
「だから大鬼を討伐してから武の国に避難した後、落ち着いたらってことで」
「わかり申した」
よろしい。
「で」
閑話休題。
「大鬼の居るところはわかってるの?」
「鬼ヶ城という場所に居を構えているとか」
「ジャンヌ?」
「城を構えてるのは事実です」
鬼ヶ城ねぇ。
オーラを広げる。
五里まで。
「なるほど」
見つかった。
案外近くにあるモノだ。
正確には鬼の国に深入りした逆説的証左だろう。
そちらに向かって歩く。
とは言っても今日の今日で鬼の牙城に押し入るほど性急でもないけど。
しばしマッピングして、
「今日はこれまで」
と相成った。
ジャンヌに火を借りて干し肉や干し魚を焼く。
食事を終えた後は風呂と洗濯。
これはフィリア。
そして後は寝るばかり。
そこで僕は想像創造と世界宣言。
薬効煙を作ってくわえる。
火を点けるとハーブの香りが肺を満たした。
フーッと煙を吐く。
「タバコでありますか?」
「んにゃ。薬」
「麻薬?」
「むしろ健康に良いよ」
精神的依存性はあるけど。
それっぱかりはどうしようもない。
「師匠は色々と器用でありますね」
「これでも苦労人なのよ」
苦笑してしまう。
どの口が。
自分で自分にツッコんでいた。