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日の本の国03

「お兄様」


「なにさツナデ?」


「手を繋いでもよろしいですか?」


「それはまぁ……構わないけど……」


「けど?」


「普通妹は兄を鬱陶しく思うんじゃないかな? 特にツナデくらいの年齢ならさ」


「ツナデはお兄様が大好きですよ?」


「上の義兄と下の義兄は?」


「あんな下衆どもは相手になんかしたくありません」


 拗ねたようにそう言って、


「では失礼します」


 とツナデは僕の手に手を重ねる。


 どころか指に指を絡める。


 いわゆる一つの恋人つなぎ。


 そして僕とツナデは一向学園高等部へと足を向ける。


 僕もツナデも高校生だ。


 僕が二年生。


 ツナデが一年生。


 忍の訓練が最優先なのは当然として、同じくらい学業も大事である。


 ちなみに上の義兄は公安調査庁に所属してカウンターインテリジェンスをしており、下の義兄は大学に通っているため地元を離れて一人暮らしである。


 どちらも忍としては超一級。


 義父によれば、


「雌犬の子と違ってしっかりしている」


 とのこと。


 これがツナデになると、


「お兄様の本気を見たこともないくせに調子に乗るな」


 ということになる。


 まぁ僕としてもここまで育ててもらった恩があるから義父や義兄に恥をかかせないため、訓練においては劣っているように見せかけねばならないのだ。


 プライドの問題と言うより筋道の問題である。


 かくて僕は義父や義兄の前で本気を見せたことはない。


 まぁ本気を見せたからといって義父や義兄を上回るなんて保証はないけどさ。


「そんなことありません!」


 恋人つなぎをしている片割れのツナデが僕の思考に否定を刺しこんだ。


「心を読まないでよ」


「お兄様は考えてることが顔に出過ぎです」


 ちなみに忍の訓練の一環として表情から思考を推測する術を僕やツナデは持っている。


「またぞろ自身を否定するような思惑をなさっていたのでしょう?」


「だから心を読まないで」


「お兄様は誰にも劣ることのない傑物です。このツナデが保証します」


 ツナデに保証されてもなぁ……。


 とりあえず、


「ツナデ……」


 と僕は義妹を呼ぶ。


「ありがとね」


 そう言ってツナデの頭を撫でた。


 それだけのことなのに極上の幸せを享受したかのように、


「えへへぇ……」


 とはにかむツナデだった。


 可愛い可愛い。


 そして僕とツナデは一向学園高等部の門をくぐる。


 すると、


「マサムネぇ……!」


 と強面の同級生が三名……僕を待っていたのだろう……校門をくぐったところで立っていた。


 僕の名を呼んだのがいい証拠だ。


 三人は三人とも包帯やギプスをしておりボロボロだった。


「ええと……何?」


 と僕が首を傾げると、


「てめぇ……何でシカトしやがった!」


 シカト?


「何のことさ?」


「昨日喧嘩するからお前も来いっつったろうが!」


「あー、それね」


 そう言って昨日のことを思いだす僕。


 別にそんな複雑な事情ではない。


 不良グループが別の不良グループと喧嘩するから「お前も参加しろ」と言われただけである。


 当然無視したけど。


「こっちは五人で九人を相手することになったんだぞ!」


「僕を含めても六人じゃないか。趨勢に影響は無かったと思うんだけどね」


「ふざけてんのかてめぇ!」


 そう言って僕の胸ぐらを掴んでくる不良さん。


 すると僕と恋人つなぎをしていたツナデがその手を振りほどき、


「お兄様に触れるなっ!」


 言葉と同時に拳を出した。


 それは僕の胸ぐらを掴んでいる不良さんの顎をかすめて不良さんの意識を刈り取るのだった。


 がくんと揺れて失神……後に失禁する不良さん。


 そんな反抗的なツナデの態度に


「な……!」


「てめぇ!」


 と不良さんBとCが激昂する。


 やれやれ……。


 僕はBの鳩尾に爪先を埋め込んで悶絶させて、Cの頭部を蹴って昏倒させた。


 こうして不良を撃退した僕だけど、


「そこ! 何をやっているんだ!」


 と教師が飛んできた。


 まぁ当たり前か。


 不良さんが三人が三人とも地面を這えばね。


「やれやれ……」


 僕はそう嘆息した。


 厄介事は嫌いだ。


 けれども降りかかる火の粉は跳ね除けねばならない。


 その結果としてがコレなら享受せねばなるまい。


「お前かマサムネ……!」


 教師の目は侮蔑に満ちていた。


 僕の家庭事情を知っているのだろう。


 ま、人生劣等生だからしょうがなくはあるんだけど。


 そして僕は生徒指導室へと連行されるのだった。

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