鬼の国27
今日も今日とて鬼の国。
ていうか亜人がポコポコ湧くため人間が定住できず、必然として文明というモノが無い。
当然ながら市場も宿屋も喫茶店も存在しないことになる。
鬼を殺しながら、
「これって観光なのかな?」
と顧みていたり省みていたり。
とりあえず霧遁の術と透遁の術を二キロ四方に展開し、鬼をやり過ごしたり殺りすごしたり。
そんなこんなでマッピングしているところで、
「うおおおっ!」
という声を感じた。
「聞こえた」
ではない。
正確を期すなら覚えたが一番近い。
要するのオーラの端に一人の人間を捉え、その人間の口の動きをごく自然に音声に変換しただけのこと。
この程度は僕じゃなくツナデも呼吸と同意義だ。
イナフもおそらく出来るだろう。
で、オーラで全身をくまなく関知しているためわかるが、
「あー……」
いわゆる一つの男の娘だった。
目で見ているのではなく感覚を外に広げて把握しているだけなので色や熱は感じられない。
が、石膏で出来た彫像を触って形を把握するようにその人物を把握できた。
男ではある。
股間事情は明確だ。
ただ顔の造形が有り得ない。
僕についてくるヒロインたちにも匹敵する美貌だ。
ご尊顔素晴らしいけど、これはあまりに不憫でもある。
で、案の定、鬼に襲われていた。
「仕方ないか」
僕は短くなった薬効煙を地面に落としてグシャグシャと踏みにじって鎮火。
それから印を結んで術名を発す。
「刃遁の術」
強烈な斬撃体験が男の娘を襲っている鬼たちを死に至らしめる。
脳が、
「深く切り裂かれた」
と誤解し、肉体に回復の負荷をかける。
その影響で体内コントロールがシンタックスエラーを起こしフリーズ。
結果致死となる。
「?」
急に鬼が死んで男の娘はポカンとしていた。
同時に霧遁の術の影響下にいるため四方が見えない状況だ。
困惑に拍車を掛ける。
「さて」
どうしたものか?
厄介事の匂いがぷんぷんする。
関わる関わらないかは、あー……でも放っておいたら今度こそ鬼に殺されるだろうし。
「しょうがない」
「何がでしょう?」
僕の隣で待機しているフォトンが問うた。
「人を一人関知したの」
「先ほどの刃遁の術は」
「そゆこと」
そんなわけで男の娘に接触を図る。
「ども」
「誰であります?」
霧遁の術はそのままに、透遁の術を解く。
僕らが現われた。
男の娘はギョッとして、
「魔術師でありますか?」
と尋ねた。
「まぁ正解」
僕自身はあまり戦闘に於いて魔術を頼ったことはそう無いんだけど。
基本的に薬効煙の創作と着火、後は場所の瞬間移動くらい……以上。
「僕はマサムネ。お手前は?」
「コテツであります」
「またお兄様は……」
呆れたのはツナデだったけど、おそらくヒロインたちの総論だ。
「美少女を見繕うのは悪い癖です」
「某は男であります!」
男の子は主張した。
「…………」
疑わしげにコテツとやらを見やってオーラを広げる。
「なるほど」
納得したらしい。
まぁ股間にブツがついていればせざるを得ないだろうけど。
一種のセクハラだけど、異世界の法にセクシャルハラスメントの概念は無い。
それから各々コテツと名乗りあって、
「何してたの?」
と僕が問うた。
「大鬼を討つのであります」
コテツがそんなことを言った。
「ジャンヌ?」
「鬼の国の亜人は武の国に於いて段階ごとに分けられてるんです」
漫画の敵キャラじゃあるまいし。
とは思うけどまぁ状況自体は似たような物か。
「小鬼。中鬼。大鬼。鬼神。そんな感じです」
「温羅や大嶽丸や酒呑童子が大鬼って言ってたね」
「です」
「鬼神って?」
「鬼の国の頂上存在。実在するかも不明な一種の信仰に拠った鬼の神です」
「ふぅむ」
まぁソレについては閑話休題として、
「大鬼を討つって?」
「であります」
コテツは愛らしい顔で言った。
黒い髪はつややか。
黒い瞳はあでやか。
どこか日本人的な外見である。
着物でも着たら立派な売春婦になれる。
言ったら手に持った日本刀で斬り殺されそうだから言わないけど。
しかし大鬼ねぇ。
嫌な予感。