鬼の国19
そんなわけで今日も今日とてマッピング。
透遁の術と霧遁の術。
それで鬼の警戒を躱しまったりと歩く。
鬼にも色々と種類がいる。
ここら辺の鬼は音や匂いには鈍感らしい。
僕は薬効煙を吸いながら、
「簡便で良いね」
そんな論評。
目につくのは青い筋肉を持つ巨人。
トロール。
そう呼ばれる亜人だ。
圧倒的膂力と超絶的回復力を持つ厄介な亜人ではあるけど、こと目を頼ることに傾倒するため僕の遁術は有益だ。
まったりと歩くマサムネ旅団。
ちなみに男女比率が圧倒的すぎて肩身の狭い僕一人。
無論嘘です。
そもそもヒロインたちをどうこう思っているなら解散させている。
フォトンとツナデだけで十分だ。
そうじゃないからタチが悪いんだけど。
完全に女たらしだ。
「何故こうなった?」
そんな自問。
答えは得られなかった。
「ウーニャー」
声を潜めてウーニャー。
「パパ、どうかした?」
「量子の海に思いを馳せてる」
呼吸するように嘘をついてしまった。
「量子?」
「量子」
「ウーニャー」
「何?」
「パパは巫女の言うことを信じてるの?」
「まぁ妥当ではあるよね」
「地球……」
「そ」
つまり、
「異世界だ」
と云うより、
「地球の文明が一新した」
が理解は容易い。
猿○惑星参照。
「とりあえず北上すればいいの?」
ジャンヌに問うと、
「ですね」
と返ってきた。
ここら辺の地理感はジャンヌが拠り所だ。
「次の国に行く最短ルートです」
「…………」
あんまりわくわくもしないね。
行く国行く国面倒事が待っていたのは僕の気のせいだろうか?
僕の因果か。
さてはフォトンの因果か。
二人旅から始まった観光旅行。
気づけばいつの間にやらこんな感じに。
男として本懐だけど、
「何だかなぁ」
が本音でもある。
「…………」
とりあえずトロールを無視して黙々と歩く。
鬼の国縦断。
「亜人ばかりってのもなぁ」
「大鬼もいますよ」
「大鬼?」
「鬼の国の首魁です」
「温羅とか大嶽丸とか酒呑童子とか?」
「よく知ってますね」
「あの野郎」
脳内の巫女を詰る僕だった。
「まぁなるべく避けて通ろう」
「賢明です」
というか面倒なだけなんだけど。
「使徒の一人でも連れてくるんだったかな?」
「了承されないでしょう」
「確かに」
行きはよいよい帰りは恐い。
鬼の国の観光に付き合うほど使徒も暇じゃ無いだろう。
で、暇な僕らが命を換算に入れず鬼の国を観光しているのだけど。
狂人の集団かな?
ちょっと自虐。
「宇宙の恥さらし。平和と統一の敵。血迷った反逆者。クビに縄をかけて白刃の上でダンスしている血まみれのピエロ。明日の死を考えもしない楽天主義の純粋培養物……」
そんな言葉を思い出す。
「今の私たちの悪口ですか?」
「ええ。あなたたちの悪口です」
そんな感じ。
「別に遁術が無くとも負ける気はしませんが」
それが最大のネックだ。
何かと、
「国家権力に屈しない集団」
という意味で僕ら以上の適格者は居ないだろう。
誇っていいのか嘆けばいいのか。
「それについては後の歴史学者に任せましょう」
「異世界で名を残してもなぁ」
「元の世界なら良いんですか?」
「それもなぁ」
どちらにせよ生きづらい浮世だ。
「ま、フォトンがいるだけこっちがマシか」
「マサムネ様!」
フォトンが抱きついてきた。
「大声出すとトロールにバレるよ?」
「まぁその場合は私が一蹴しますので」
それもどうかなぁ。