魔の国06
オルトの屋敷で一晩を過ごした。
そもそも忍である僕は不穏を感じれば一瞬で意識を覚醒する術を覚えている。
此度起きたのは自然なモノでなく不穏を感じたがためだった。
口内に何か入ってくる……!
そう思った瞬間、僕は覚醒して体を跳ねあげると犯人を拘束して貫手を構えた。
クナイが欲しい所だったけど無い物ねだりをしてもしょうがない。
ともあれ頸動脈に貫手を当てて、それから僕は犯人を見た。
「あれ……? フォトン……?」
深緑の髪。
深緑の双眸。
そして絶世と言って言い過ぎることのない美貌。
魔法少女ことフォトンが僕に拘束されて、驚いていた。
「何してるの?」
そんな僕の問いに、
「それはこっちのセリフです」
もっともなことをフォトンは言った。
「僕の口内に何か入れようとしたのは君?」
「そうですけど……」
「何をしようとしたの?」
「ディープキスです」
「寝ている僕にかい?」
「だって……マサムネ様に頼んでも断られそうで……」
「…………」
「寝ている内なら気付かれないかなって……」
「……はぁ」
やれやれ。
そういうことか。
僕はフォトンの拘束を解くと、その名を呼んだ。
「フォトン」
「なんでしょう?」
「ん……」
僕はフォトンにキスをした。
「…………」
目を見開いて絶句するフォトン。
その口内に舌を侵入させて凌辱する。
いわゆる一つのディープキス。
「ん……ん……っ!」
「……っ! ……!」
激しく僕らは求め合い舌を淫靡に絡める。
そして、
「ぷはぁ」
僕はキスを終える。
僕とフォトンの口を繋ぐようによだれが糸を引いて、その糸も容易く千切れた。
「はにゃ~ん……」
フォトンは腰砕けになっていた。
「これで満足?」
問う僕に、
「十分すぎます」
答えるフォトン。
「なんだか……マサムネ様は慣れていらっしゃいますね……」
「まぁ義妹とよくしていたからね」
「妹とディープキスを?」
「うん。求められて何度もした。だからこれくらいじゃ僕にとっては愛情表現の内には入らないんだよ」
「じゃあこれがファーストキスではないんですね……?」
「そういうことになるね」
「私はファーストキスなんですけど……」
「そりゃご愁傷様」
僕は肩をすくめるのみだ。
「なんだか大人の余裕を持ってますねマサムネ様は……」
「慕情を寄せられることに慣れているだけだよ」
「慣れているんですか?」
「義妹に好き好き言われればそりゃあ……ね」
「マサムネ様の妹さんの幻影が私の敵ですね」
「…………」
そういうことになるのかな?
まぁ恋する乙女に理論を求めるのが間違っているのだろう。
「フォトンは僕が好きなんだよね」
「はい」
フォトンは頷く。
「マサムネ様は私を好きではないんですよね」
「好きなら目覚ましにディープキスなんてしないよ」
「むう……」
だから膨れないでって。
「私はマサムネ様が好きで好きでしょうがないんですよ!」
「そんなこと言われてもなぁ」
ガシガシと後頭部を掻く僕。
「ともあれ起きようか」
「話を逸らしていますね」
「好きでもない美少女から慕情を寄せられたって……ねぇ? 僕としては義妹と決着をつけない事には次の恋に移れないというか……」
「じゃあ妹さんをここに呼べばいいんですね?」
「止めてあげて」
「何でです!」
「義妹……ツナデは加当の家でも重要な役割を持つ存在だから。排斥されていた僕とは違ってね。だからツナデにはあっちの世界に残っていてほしい」
「むう……」
だからふくれっ面にならないの。
「キスくらいなら幾らでもしてあげるから今はそれだけで勘弁してよ」
「いくらキスされてもマサムネ様が私を好きにならなければ意味が無いんです!」
「ライクという意味では好きだよ?」
「ラブで好きになってください」
「どちらにせよ異世界観光は長い旅になるんだ。その過程でフォトンを好きになるかは……神のみぞ知るってところかな?」
そう言って僕はフォトンに軽くキスをした。
それだけで真っ赤になるフォトンはそれはそれはとても可愛らしかったけど……そのことに対して言及する必要はないだろう。