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鬼の国17


「で、こうなると」


 夜の決闘場は大賑わいだった。


 飛炎。


 リリアを巡っての決闘。


 なお貴族と賞金首の決闘。


 トトカルチョが行なわれる。


 観客席は満員。


「趣味が悪い」


 とは僕の感想だけど、


「おまいう」


 との論理も適応される。


 炯々と光っているのは魔術の明かり。


 ライティングの魔術だ。


 何でも光属性ではなく火属性らしい。


 僕にしてみれば、


「属性で事象が分別できるなら元素記号を覚える中学生はいない」


 ということになるのだけど。


 貴族の男は決闘場における円周の反対方向に居た。


 視線には狂気が宿っている。


 もはやリリアを手に入れるより僕に報復することが本分になっていた。


 別にソレについて憂うことも無いのだけど。


 マイクパフォーマンス。


 観客の熱気。


 その背景と現行するしがらみ。


 さてどっちがどっちを見切っているのやら。


 こういうのは僕の本分じゃないんだけど……。


「木を以て命ず。薬効煙」


 薬を生みだして口にくわえる。


「火を以て命ず。ファイヤー」


 吸いながら薬効煙の末端を火に当てて着火。


 煙を吸って吐く。


 思考がクリアになる。


 鬼の国から帰って食事を取り休憩。


 後にこの状況。


 とりあえず体調は十全だ。


「それではお二方! 覚悟は宜しいか!」


「ん」


「当然だ」


「では決闘開始!」


 ワッと観客が沸いた。


 対岸の火事だからって良い気なモノだ。


 男が呪文を唱える。


「かの者に願い奉る」


 僕はオーラを決闘場の分だけ広げて印を結ぶ。


「分身の術」


 僕の左右にもう二人の僕の幻像が現われた。


「っ!?」


 驚愕する男ではあったが、


「我は火の本質を知る者なり」


 呪文の詠唱は止めない。


 僕は更に印を結ぶ。


「透遁の術」


 フツリと姿を消す。


 ちなみに男から見て人数は減っていないはずだ。


 僕と重なる形でもう一人の幻像を予備に作っておいたから。


「そは灼熱の地獄にも似て」


 男の呪文詠唱は留まる所を知らない。


 いいんだけどさ。


 当人がソレで満足なら。


「…………」


 透明になった僕は迂回しながら男へと歩み寄る。


 分身である三人の僕の幻像はゆったりと歩いて男に近づく。


「故に喚起する」


 そして漸く男の詠唱が終わる。


「ファイヤーウォール!」


 その呪文通りの炎の滝が天から地に降り注ぐ。


 灼熱が僕を焼く。


 正確にはその幻像を。


 無論幻像が痛痒を覚えるはずもない。


「馬鹿な!」


 平然としている僕の分身を化け物でも見るように瞳孔を開いて見つめる男。


 当たり前ではあるけど、服に煤一つ付いていない僕の幻を幻と見抜けない時点で落第点だ。


 ここでは採点の対象ではなかろうけど。


 僕は薬効煙を吸いながら円形闘技場の縁をなぞる様に歩き、男の背後を取る。


 男はまた呪文を唱えだした。


「かの者に願い奉る。我は火の本質を知る者なり。そは……」


 ファイヤーウォールの呪文だ。


 完成した呪文と同時に唯一神が男の願いを聞き届ける。


 巫女曰く、


「魔術はデミウルゴスの受動的な人間理解」


 とのこと。


 魔術とは即ち神への祈願らしい。


 そうなると魔の国ってのも僕に負けず劣らず業が深い。


 これも、


「おまいう」


 だけど。


 僕は男の背後でゆったりと印を結んだ。


 そもそも観客には意味不明だろう。


 あくまで遁術が適応されるのはオーラの範囲内。


 そして僕が広げているオーラは闘技場限定。


 観客席の人々は淡々と遠回りに歩いて近づく僕を見もせず、虚空に魔術を放つ男の道化性がただただ不可思議だろうから。


「雷遁の術」


 電気ショックが男を襲った。


 正確には電気ショックの幻覚だけど。


 神経に新たな情報をオーバーライドして疑似体験をさせる。


 それが遁術の本質だ。


 一から講義する気は毛頭無いけど。


「――――!」


 声にならない悲鳴を上げて、男は崩れ落ちた。


「虚しい勝利だなぁ」


 僕はフーッと月に向かって煙を吐いた。


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