鬼の国15
「んー……」
アドレナリンが足りなかった。
基本鬼の国では過剰に必要となるため、それ以外ではダラダラと。
ここは魔の国の高級ホテル。
その食堂。
レストランと呼んで差し支えない豪華な食堂だ。
そこで朝食をとっている僕たち。
朝はパンとジャム、スープとサラダ、以上。
肉や乳製品は少し重い。
別に出てきたら食べるけどさ。
もむもむと食事を取っていると、
「あのう……」
とリリア。
利休鼠の瞳が不思議な光を湛えている。
「んー……?」
もむもむ。
「今マッピングしている……国ですけど……」
「鬼の国」
「です……」
かじかじと木の実を囓るリスのようにパンを囓っていた。
一々リリアは可愛い。
「今日だけリリアも……連れてってくれませんか……?」
「何故?」
スープを飲む。
うん。
美味し。
「リリアも……戦えるって……証明したい……」
「…………」
無理だと思うけどなぁ……。
「そしたら……マサムネもリリアを……」
「まぁ一日くらいなら連れて行くのは良いけどさ」
無限復元も居るし。
「ではよろしく……御願いします……」
そういうことになったらしい。
で、また和やかに食事を進める。
と、
「ゲス野郎!」
男が一人。
誰に対してか罵声を浴びせながら食堂に入り込んできた。
「お客様。どうかお怒りを鎮めください」
ホテルマンが押し留めていたけど、暴走特急にブレーキは無い。
「マサムネぇ!」
見知らぬ男は僕の名を怨嗟で呼んだ。
「誰?」
誰何。
「殺すぞ!」
「陳腐な脅し文句だね」
スープを飲みながら。
本当の殺人犯は、
「殺す」
と脅しはしない。
速やかに殺して死体を処理するか。
他者の目に触れないうちに逃げ出すか。
僕らには例外だけど。
「で、だから誰よ?」
とりあえず目は覚ました。
「イットリー=リンドバーグだ!」
「寡聞にして聞かないね」
「魔の国の大貴族だ!」
「家柄は凄いんだろうけど」
食事を終えて気怠げに。
「それを笠に着る一人の人間に畏れ入るのも筋違い」
食後のコーヒーを飲みながらほっこりと僕は言った。
「昨日話しただろうが!」
「そなの?」
僕はヒロインたちに視線をやる。
揃って頷かれた。
要するに事実らしい。
「で、その一般人が何の用?」
「決闘しろ!」
「忙しいから無理」
「逃がさんぞ!」
「何か恨みを買う事したっけかなぁ」
コーヒーを飲みながらぼんやり言うと、
「俺の頬にタバコの火を押し付けたろうが!」
「そなの?」
またしてもヒロインたちは頷いた。
「そっかぁ」
ぼんやりと僕。
「お前だけは殺してやる!」
「命と義と愛と徳は大切にすべきよ?」
「貴様だけには言われたくないわ!」
まこともってその通り。
「いやまぁ忙しいのは事実なんだけど……」
鬼の国のマッピングをせなばならない。
「夜で良いなら相手するけど?」
「今夜だ!」
「性急だね」
「貴様を一分一秒生き永らえさせるのも胸くそ悪い!」
「さいですか~」
コーヒーを飲む。
「ウーニャー」
とウーニャー。
「殺そうか?」
「やって出来んではないだろうけど」
嘆息。
「ま、余波で他人を殺すのもね」
その点で言えばフォトンにも通じる。
「じゃ、準備諸々はそっちに任せるよ。こちらもこちらで事情があって座を外す必要があるんでね」
「辞世の句でも考えてろ……」
「善処しよう」
そういうことになった。