鬼の国13
「タマナシだな」
貴族は皮肉った。
いよいよヒロインたちの視線が険しくなっていったが、
「もはやどうにでもなれ」
と云った感想。
地雷原でタップダンスしているのに気づいていないのは男くらいのモノだろう。
爆破しなければ良いけど。
「ウーニャー……」
頭上のウーニャーの声も固く尖っている。
尻尾ペシペシも無い。
「リリアさん?」
男は視線を僕からリリアへ変じた。
「何でしょう……?」
「君にこの男は相応しくないよ。私なら君を幸せに出来る」
「無理です……」
怯えながらもリリアは言った。
「何を根拠に?」
「あなたは……この人じゃ……ないから……」
僕を指差してリリア。
「恋は盲目と言うけれど……」
男は肩をすくめる。
「これは重傷だ」
まったくもって。
本来なら僕には相応しくない女の子ではある。
「では優劣を決めようじゃ無いか」
僕を睨む。
「決闘かな?」
「他に在るかい? 魔術は使えるかい? それとも剣が良いかな?」
「…………」
オムライスをもむもむ。
完食して、
「ごち」
と一拍する。
それから薬効煙をくわえて火を点ける。
煙を吸い込んだ。
「とりあえず」
と僕。
「まだ生きてはいたいでしょ?」
「まるで決闘で私が命を落とすと聞こえるんだけど勘違いかな?」
「まるでで済むなら良いけどね」
「君のその自信はどこから来るんだい?」
「あえて言うなら」
煙を吸って吐く。
「立ち方かな」
「立ち方?」
予想外。
男は瞳でそう言った。
「体に軸が無い」
これは基本だ。
「勁も練られていない」
これも基本。
「意識が拡散していないし視線が集中しすぎている」
「?」
「服越しの体つきから鍛えてないのも丸わかり」
「私は魔術師だからね」
男は言った。
「身体能力なんて魔術で補える」
「…………」
「むしろ体を鍛えた程度で大破壊の魔術を防げるとでも?」
「よく見といてねリリア」
フーッと煙を吐く。
「魔術が強力なことがイコールで強いと誤解している良い例だ」
「あう……」
自省したのだろう。
赤面するリリア。
「つまりだ」
とは男。
「君は騎士として体を鍛えているから私の魔術を防げない。だから知った風な口を聞いて誤魔化そうという腹なんだろう?」
「だね」
もうそれで良かった。
「とりあえず僕が君と決闘をする気が無いのを理解してくれたようだ」
プカプカ。
「なら諦めて」
サクッと言う。
「ならこちらから仕掛けよう。幾らでもご託を並べていてくれ」
男の瞳に幼稚な殺気が乗った。
「かの者に願い奉る。我は火の本質を知る者なり。そは……」
と熟々呪文を唱え始める男の脛を、
「…………」
僕は席に座ったまま強力に蹴飛ばした。
痛覚が男を襲う。
呪文が断じられ、膝を押さえて蹲る男。
その男の首筋に手刀を落とす。
「っ!」
意識を手放す男。
「さて」
僕は男の頬で薬効煙の火をもみ消して、
「じゃあ出よっか」
朗らかにそう言った。
「容赦ありませんね……」
リリアは困惑しているようだった。
他のヒロインズたちは、
「何時ものマサムネ」
と納得していた。
僕平和主義なんだけどなぁ……。
色々やらかしてはいるけどあくまでリアクションだ。
アクションが前提として存在する。
なお今回は僕を殺す気で魔術の呪文を唱えたため非は男にあるだろうに。
「マサムネ様は」
「無敵ですね」
フォトンとツナデの苦笑。
不本意ですけど。