鬼の国12
「今日はマッピングしないんですか?」
「まぁ明日死ぬわけでも無かろうしね」
フォトンがいればこの際問答無用だ。
鬼の国におけるマッピングも大事だけど、
「とりあえず今日はサボり」
と相成った。
で、僕は先頭を歩く。
腕に抱きついているのはフォトンとツナデ。
僕のスーツの背中を摘まんでいるのがリリア。
そしてゾロゾロ他のヒロインたちが着いてくる。
完全に誤解される絵面だ。
誤解……では無い部分も多分にあるけど。
衆人環視の注目の的。
「誰だアイツ?」
といった僕への疑念が一番言葉としては多い。
そこからリリアが懐いていることを言及する。
次いで他のヒロインたちにも下卑た視線を向ける。
そんな感じ。
まぁ自然そうなるだろう。
男の因果について口で説明できるならリリアの問題は起こらない。
で、ゾロゾロと学食へ。
棟内でまたどよめきとざわめき。
僕とリリア……ときどきヒロインズ。
食事を受け取って席の一端を占める僕らだった。
「あの……視線が……」
リリアとしては立場が無いのだろう。
「気にする方が負け」
そう言ってオムライスをハムリ。
異世界にもオムライスはある。
ま、女子高生が創った世界ですけんね。
「別に犯罪を起こしてるわけでもなし」
はむはむ。
「堂々としてりゃ良いのさ」
「無茶ですよぅ……」
「リリアは可愛いね」
「あぅ……」
赤面するリリアは大層可愛らしかった。
それについてからかおうかと思っていると、
「ご大層なモノだね」
そんな言葉が掛けられた。
リリアではない。
ヒロインたちでも無い。
金髪の男だった。
年齢的に僕より上。
あくまで外見を概算するなら……だけど。
「恐縮だ」
チラリと男を見やって、それからまたオムライスをパクつく。
「特に興味が無い」
一言で尽きる。
「尚且つ厚顔ときた」
皮肉る男。
「…………」
無視してオムライス。
「会話をしてくれないかな? それとも言葉の通じない田舎者かい?」
言い得て妙だ。
田舎者ね。
ある種の異世界はその通りだろう。
「…………」
スッとヒロインたちの目が細くなった。
「待った」
オムライスを食べるのを止めて牽制。
「…………」
ピタリと意識と行動が止まる。
良し。
「で? 何か用かねモブキャラ」
「育ちも悪いときた」
「こんな性格でもなければやってられないんでね」
事実その通りだ。
育ちが悪いのは……まぁ外れているわけでも無い。
元が元だし。
ソレを言えばツナデもそうなのだけど此処では語らない。
「君にリリアさんは勿体ないよ」
「育ちが悪いのはどっちだ……」
辟易とする。
「これでも貴族の出だけど?」
鼻を鳴らして全力で上から目線。
貴族ね。
「なら育ちじゃ無くて頭が悪いんだな」
「君ほどではないさ」
「然りだ」
「認めるのかい?」
「ここで言い争って損得が発生するとも思えんしねぇ……」
オムライスをもむもむ。
「僕の質問が先でしょ?」
「何?」
「で? 何の用かねモブキャラ。僕はそう問うたんだけど」
「では言おう」
「前置きは良いよ」
「一々癪に障るね君は」
「お褒め預かり恐悦至極」
オムライスをもむもむ。
「用件か……」
男は少し思案し、
「君に死んで貰いたいんだけど……」
「さいでっか」
特に気に掛ける言葉でも無かった。
もう少し文明的な言葉を期待したのだけど、するだけ無駄だったらしい。
「一つ。決闘でもしないかい?」
「面倒」
「逃げるのかい?」
「三十六計より勝るしね」
まこともって真理である。