鬼の国11
「リリアさん! 今日こそ僕と!」
「いや俺と!」
「小生と!」
「某と!」
ズズイと男どもが迫ってくる。
「…………」
大人気だなぁ。
紅茶を飲んでまったりしながら僕はそんなことを思った。
「毎度こんな感じかな?」
執務に精を出しているクランゼに問うと、
「概ね」
そんな言葉が返ってきた。
元より美少女だ。
クランゼの指導によって、
「飛炎」
と二つ名がつくほど火に長けた魔術師にはなった。
それが果たしてこうなるわけだ。
「研究室への希望も多いんじゃない?」
「門前市が出来ますね」
でしょうよ。
「あうぅ……」
リリアは困惑していた。
「助けないんですか?」
フォトンが言ってくる。
字面だけみれば善意の言葉に見えるけど、多分に皮肉のスパイスが利いている。
ていうか君は事情を知っているでしょ?
「…………」
とりあえず紅茶を飲む。
「ウーニャー……リリアは可愛いからね」
珍しく僕の頭に乗っていないウーニャーは人になって僕の膝に。
プラプラと足を揺らせている。
御機嫌らしい。
「それでは失礼を……」
そう言ってパタンとリリアは研究室の扉を閉めた。
「はぁ……」
お疲れだね。
「ご苦労様」
「助けてよ……マサムネ……」
非難がましい目。
ちなみに僕には一切非が無い。
これは本質的にはリリアの問題だ。
「中々好男子が揃っていたようだが?」
この辺はオーラで確認している。
場合によっては遁術の行使も吝かではなかった。
「マサムネが……一番……格好良いから……」
「嬉しいこと言ってくれるねシニョリーナ」
笑んでしまう。
可愛い女の子の好意は魔術よりも神秘だ。
「…………」
で、ヒロインたちの視線が段々と低温になっていくけど、こっちに関しては僕のしがらみ……というか問題。
女性に追いかけられる僕。
男性に追いかけられるリリア。
そう云う意味ではリリアの精神的疲労は、
「僕のソレと等価」
とまでは言わないけど、五割程度重なっている可能性もある。
一つ違うのは僕がヒロインたちに好意を持っていること。
リリアが僕を好きである以上、
「他の男は路傍の小石」
と言えるだろう。
僕も移り気な性格だ。
でも誰一人として欠けることの無い魅力の美少女がこんなに居れば、一人を選ぶのも度しがたい。
ならハーレムか?
そうも思うけど、
「それもどうだか……」
沈静に紅茶を飲んだ。
「ウーニャー」
ウーニャーの発言。
「ブレスで吹っ飛ばそうか?」
止めて。
別に人の命が無条件に尊いとは思わないけど魔術の魔窟で問題を起こせば面倒なことになる確率はソロバン弾くまでもない。
「そんなわけで……」
あう……。
そんなリリア。
「リリアがマサムネの……女だって……証明してくださると……」
「後悔すると思うけど?」
「ですか……?」
首を捻って悩むリリア。
これは後悔への不安ではなく僕の言葉の現実性についてだ。
「でも……」
とリリア。
「マサムネより……格好良い男性は……まだ見たこと無いですし……」
「賛成!」
とフォトン。
「同意」
とツナデ。
「だよね」
とイナフ。
「ウーニャー!」
とウーニャー。
「よねぇ」
とフィリア。
「まったく同感です」
とジャンヌ。
「そこまでのモノかなぁ?」
それが僕の本音。
「とりあえず学食でも食べに行ってはどうですか?」
これはクランゼ。
「狭いですし」
ボソッと付け足した。
まったく以てその通り。
僕とヒロインたちを全員収納できる部屋ではない。