鬼の国02
「正気ですか?」
尋ねられた。
実のところあまり自信は無い。
基本的にこのパーティは壊滅的すぎて自身で自身を正しく評価することに関して全幅の信頼を置けないのだ。
使徒の懸念も尤もだろう。
ここは鬼の国の国境沿い。
鬼の国。
文字通り鬼が出てくる国らしい。
正確には亜人と呼称されるがメタな発言をするわけにもいかないのでここは割愛。
堕天使とともに現われる鬼。
神デミウルゴスの……人に対する憎愛感情の発露。
故に人を襲う。
鬼の国ではそんな危険な存在が堕天使もいないのに雨後のタケノコの如くポコポコ湧いてくるらしい。
ここで使徒に繋がってくる。
天使は慈愛の存在。
堕天使は殺憎の存在。
この両者の極端性は神の使いならではであるが閑話休題。
とりあえず鬼の国からポコポコ湧いてくる鬼を封じ込めるため鬼の国の国境沿いは教会が監視していると云うことらしい。
なるほど。
そうは思うが結果として要らぬしがらみであることもまた事実。
此処に居るのは僕ことマサムネ、フォトン、ツナデ、イナフ、ウーニャー、フィリア、ジャンヌ。
まぁ亜人程度なら鎧袖一触に出来る。
それをどう証明するか。
これが鬼の国への入国審査らしい。
どうしたものかなぁ。
薬効煙をプカプカ。
「とりあえずパーティで一番弱いのは?」
使徒が僕らに尋ねた。
「…………」
沈黙。
難しいにも程がある。
色々と議論した後、イナフに決まった。
当人も異論は無いらしい。
少なくともフォトンとウーニャーとフィリアに関しては比べようが無い。
大凡人間という枠から外れている。
まぁウーニャーは元より人ではないけど。
残るは僕とツナデとイナフとジャンヌ。
僕はこと骨法面においてツナデとイナフを凌駕する。
ツナデは魔術の恩恵ではあるが拳銃を所持。
イナフはエルフの戦闘術(ぶっちゃけるなら忍者八門とそんなに変わらない)を嗜んでいるものの練度で言えば僕とツナデに劣る。
が、ジャンヌとイナフが戦うなら先手を取れるイナフが有利だろう。
では最弱代表が何故ジャンヌではなくイナフとなったかについては、こと、
「真正面から馬鹿正直に」
という条件に置いてはイナフよりジャンヌが勝るという結論に達したからだ。
使徒の能力については聞いているけど、その能力と戦うにあたって最も不利だと判断できたのがイナフである。
ジーザス。
そんなわけで鬼の国の入国審査が始まった。
試合開始。
寸秒で終わった。
エルフ魔術。
僕とツナデの世界で言うところの遁術。
オーラを広げ脳と脳を直接繋げることでハッキングをかけて幻覚を与える術。
使徒が魔術に集中するより試合前にオーラを展開して、試合開始直後に印を結び火遁の術を行使したイナフの方が断然有利。
むしろ国境沿いの使徒の戦力の方が気がかりなくらいだ。
「これで文句ないよね?」
イナフの全力上から目線。
殺してはいないけども、無念のことお察しします。
それから鬼の国の事情を講義されて入国審査は終わった。
「まぁ殺されても私が助けますから」
とはフォトンの言。
「?」
と使徒たち。
深緑の髪。
そのおさげをクイとふるって一礼。
「私はフォトンと申します」
名刺に勝る端的な言葉。
深緑の髪のフォトン。
無限復元。
セブンゾール。
「あのフォトン様ですか!?」
まぁそうなるよね。
頷く僕。
煙をフーッと吐く。
「ウーニャー!」
ウーニャーも誇らしげ。
「これは気づきませんで」
使徒たちはひたすら恐縮。
「というわけで物理的な破壊に関してはフォローが出来ますので安心なさってください」
ニコリと破顔。
「駄目でしょうか?」
念を押すように尋ねるフォトンの性格も大概だ。
「いえ。そういうことなら」
さすがに無限復元にはケチを付けられないだろう。
フォトンが通れないなら誰が通れるというのか。
そんな感じ。
「ところで賞金首の件ですけど……」
とりあえず審査も済んだと言うことで、許可が下りるまで使徒と雑談して過ごす。
使徒は賞金首に用は無いので安心できるが、やはり経緯くらいは四方山話の種なのだろう。
こっちとしてはいい迷惑だが、そもそもで言えばフォトンの脱走の手助けをしたのがライト王にとってのいい迷惑だろう。
「ウーニャー?」
ウーニャーが察してくれる。
「いい子いい子」
頭に乗っかっているウーニャーの頭を撫でる。
というわけで鬼の国に入国することは出来たんだけど……。