鬼の国01
「なるほどなぁ」
受けた苦言を思い出す。
が、まぁ敵の対処が優先順位としては高い。
「ギシャア!」
言論思考が出来ない亜人が鋭い爪で僕の頸動脈を狙う。
「ふむ」
クイと首を傾けて一寸避ける。
カウンター気味に殴って吹っ飛ばす。
それで解決するのなら無問題ではあるが。
亜人。
この国では鬼と呼ばれるらしい。
鬼。
元の世界でも存在は囁かれていた。
丑の角と寅の腰巻き。
即ち丑寅。
鬼門を意味する方角の神秘存在。
こっちに鬼の信仰があるかは後の議論とする。
が、少なくとも巫女が創った世界なら日本の怪談にかぶれていても、
「まぁしょうがないよね」
で済む話でもあった。
中々因果の深い状況でもあるが。
「ギギャア!」
別の鬼が襲ってくる。
既にオーラで感知しているため不意打ちという概念は僕には無い。
まぁ不意打ちされても問題はにゃーっちゃにゃーんだけど。
サクッと爪を回避。
「バルス」
鬼の目を潰す。
そして蹴飛ばす。
その先には灼熱の炎。
焼き焦がれて死ぬ。
恋愛的な意味ではなく物理的な焦がれで。
「なんだかなぁ」
「ウーニャー!」
頭のウーニャーもうんざりしているらしかった。
「ふっとばそうか?」
「やめて」
一番簡単な解決法ではある。
あらゆる万象を滅却させるウーニャーのブレスは強力無比だが、今は各々が散開して戦っている。
ここにウーニャーを投入すると少なくとも二人は死ぬ。
「面倒ですねぇ」
考えることはフォトンも似通っているらしかった。
「魔術は禁止だよ?」
今更だが。
とりあえず襲われはするものの、
「はぁ」
嘆息するに留めるフォトン。
元が無限復元だ。
傷つこうにも鬼では役者が不足すぎる。
「じゃあ役者が足りるのは誰か?」
と聞かれても僕には答えられないのだが。
銃撃。
斬撃。
水撃。
火撃。
僕とフォトンとウーニャーは鬼をあしらうのみ。
ツナデとイナフとフィリアとジャンヌが実質鬼を殲滅していた。
頼りになる女性だことで。
一応花も恥じらう乙女のはずだが、こと一騎当千の女武者。
巴御前にも劣らない。
特に水と火の二極化しているフィリアとジャンヌは特級戦力だ。
あくまで、
「使い勝手の良さ」
を前提とするならばと注釈はつくけれども。
本当の意味での特級戦力は言わずもがな。
ただフォトンとウーニャーは運用を間違えると大災害と同質だ。
別に大陸が焼け野原になろうと構いはしないのだけど、僕の不利益には目をつむれない。
いわばそういうことである。
「ギシャア!」
何処から現われたか新たな鬼。
「ウーニャー!」
威嚇するウーニャー。
可愛い。
「よっ……と」
すれすれで躱して背負い投げ。
五メートルほどすっ飛ばした先にはジャンヌの炎。
聖なる炎。
邪悪を焼き滅ぼす炎。
こう聞くと神聖な概念に聞こえるけど定義自体は単純だ。
「ジャンヌが悪と見なした者」
それだけ。
ほとんど欠席裁判の理屈だが、元々の運用価値が無くなったため、
「まぁこれはこれで」
と妥協する僕ら。
「それでいいのか」
というツッコミは自分自身にし飽きてる。
ジャンヌと居るだけで火に困らない上、暖房器具代わりにもなる。
言い方を考慮しなければ、
「良い買い物をした」
という感じだろう。
それは雪の国で証明されているのだけど。
「セイ」
襲ってくる鬼をフルボッコ。
「終始こんな感じなのですか?」
ツナデだ。
「ええ、まぁ」
ジャンヌの言。
「忠告通りですね」
ハンドカノンを撃って鬼の脳漿を破壊する。
立派な銃刀法違反だが、少なくともこの国に法律は無い。
そう。
鬼の国には。