雪の国25
毒料理。
「歓待にしてはご挨拶だね?」
「ふむ……死なぬか……」
どうやら釈明する気は無いらしい。
ところでフォトンとツナデはあっさり食べ続けた。
こちらはこちらで剛の者だ。
「だ、大丈夫なんですか?」
リイナが困惑する。
「私は毒くらいじゃ死なないし」
「ツナデとお兄様はありとあらゆる毒に耐性を持ってますし」
「人間?」
こっちもご挨拶。
「限りなく逸脱した存在ではありますが……」
ツナデは飄々と言って毒料理を食べていった。
「で、再度問うけどどういうつもりかな?」
「君らのような《本物の戦力》が集まるのは困るのでね」
そしてレジスタンスの六割が僕たちに敵意を向けた。
オーラであっさり確認。
手に取るように表情筋を読んで、敵と無関係者を選別する。
結果として半分以上が裏切り者だったという事実。
「リーダー! 裏切っていたのですか!」
「人聞きの悪いことを言うな。騙しただけだ。裏切りとは最初に互いを信頼し合った後の結果だ」
まぁ納得は出来る。
詭弁には違いないけど。
「そもそもにして地下に潜伏するレジスタンスがいつまでも行動しない方が不思議だったんだけどね」
「あらかた分かっている……と?」
「レジスタンスという名目で反抗勢力を纏めてリーダーやスノウ王に通じるメンバーが反抗勢力を監視する。そうすればレジスタンスによってスノウ王へのダモクレスの剣が作用しないといわけだ」
肩をすくめて、
「ま、古典的なテロ対策だね」
サクリと現状確認。
「つまり私たちは……」
リイナの顔色が変わる。
サッと青色に。
「まぁスノウ王の手の平の上だね」
馬鹿馬鹿しいけどそれが現実でもある。
「素直に死んでいれば問題なかったろうに……」
「僕らが実はスノウ王の間者だから殺したと本当のレジスタンスメンバーに説明する気だったのかな?」
「当たり前だろう」
確かにソレしかないよね。
「問題は僕らが特記戦力と言うことか……」
少なくともスノウ王の首程度いくらでも牙を突き立てられる。
「どこまでがスノウ王の間者なんですか?」
そんなリイナの問いに、
「六割方ね」
僕が答える。
「どうしてわかる?」
こちらを驚異と感じていないのかヒゲのおっさんはキョトンと質問してきた。
「むしろどうしてわからないと?」
質問で返す。
別段今から死ぬ人間にオーラの講釈をする必要もない。
「さて、じゃあスノウ王側のレジスタンスたちには死んで貰いましょうか……」
「出来るならばな」
そしてヒゲのおっさんはナイフを取り出すと位置的に近いリイナの首にナイフを押し当てた。
「さて」
と不敵に笑われてしまう。
「リイナを殺されたくなかったら大人しく捕まって貰おうか。何、殺しはしない。少し監禁させて貰うだけだ。リイナの命とは比較にならんだろう?」
「だね」
「ですね」
「ええ」
「うん」
「ウーニャー」
「あは」
「ははぁ」
僕らはさっくりと答えた。
ヒゲのおっさんの意図とは、
「逆の方向」
で。
それを理解していないヒゲのおっさんは、
「よし。物わかりが良いのは美徳だな」
僕らが降伏したと勘違いした。
「ま、いいんだけどさ」
「雷遁の術」
ツナデがオーラを使って誤情報を脳に注射する。
電撃……というか雷撃の仮想体験によってスノウ王側の人間の半分がショックで半死の気絶に至り、もう半分は意識はあったけど脳と筋繊維に負荷がかかり……おそらく今後の人生にハンデを持つことになるだろう。
別段僕らの責任でもないけど。
一人無事なヒゲのおっさんがリイナの首元にナイフを当てながら狼狽した。
「何をした!?」
「まぁヴァーチャルリアリティ体験を」
僕の仕業じゃないけどねん。
「本当にリイナを殺されたいらしいな……!」
「はあ」
ぼんやりと僕。
「どうぞ殺しちゃってください」
簡単料理レシピの公開みたいに僕は言葉を紡いだ。
特に人質というものに縁のない都合、
「リーダーさんのやってることはトンチンカンだ」
というのが率直な意見である。