雪の国21
村の宿にチェックイン。
村人の感謝の念故に無料で泊めてもらうことになった。
有り難いことである。
で、
「お兄様」
ルンと弾むような声でツナデが僕に寄り添った。
兄妹そろって水着姿。
当然お風呂に入っています。
温泉が出るとのことで。
それはこの世界の、この大陸では当たり前なんだけど。
さて、
「お兄様?」
「なぁに?」
「抱いてください」
「嫌」
コンマ単位の応酬だった。
「でもお兄様は私が好きでしょう?」
「…………」
苦々しく表情を歪める。
「お・に・い・さ・ま?」
「好意的ではあるね」
しょうがないから認めよう。
「前にも言いましたがこちらの世界では家のしきたりはありませんよ?」
そうではあるけどさ。
「お兄様を責める何者もいません」
そうではあるけどさ。
「お兄様は父や兄の目を気にする必要も無いんですよ?」
そうではあるけどさ。
「処女主義なもので」
ハンズアップで降参した。
「お兄様は優しいですね」
「意外とそうでもないよ」
「ふぇ?」
「ツナデを抱きたいって気持ちは確かに有るから」
「ツナデもです!」
ツナデが僕に抱きついてきた。
ムニュウとツナデの胸が僕の胸板に押し付けられる。
「光栄だね」
「栄光です」
そりゃどうも。
「でも抱いてはくださらないのですね……」
「うん」
「何故です?」
「まぁ色々ありまして」
「キープですか?」
「そう思って貰って構わないよ」
そういう側面も無いではないし。
「幻滅した?」
そうして貰った方が大分気は楽になるんだけど。
ツナデはクスクスと笑った。
「なんて心配」
?
「お兄様はまだツナデがお兄様をどれだけ好きかを理解していらっしゃらない」
「好きなのは知ってるよ?」
「好きなんて言葉じゃ足りません。愛おしいんです。病気になるほど」
「病気……?」
「お兄様さえ合意してくださるなら他の女の子たちを鏖殺してもいいんですよ?」
「まぁフォトン以外になら出来そうだけど……」
「一番のライバルが一番の難敵ですね」
不老不病不死だしね。
僕は抱きついているツナデの額を押して引きはがす。
それから、
「ツナデ」
とちと真剣に名を呼んでみる。
「何でしょう? お兄様……」
「キスしよっか」
「ふぇ?」
ボンと真っ赤になった、
「はぅあ! あうあう!」
と狼狽する。
「可愛いねツナデは」
正直笑ってしまう。
淫靡に誘う女の子でありながら攻められると狼狽する乙女でもあるのだ。
「ごめんね」
クシャッとツナデの頭を撫でる。
「不安にさせるよね」
「あうぅ……」
「だからキスをしよう」
「はい……」
そしてツナデは目を閉じた。
意を決して、
「いただきます」
と僕はツナデにキスをした。
それもフレンチな奴を。
「ん……は……ぁ」
「ん……っ……っ」
舌による口内の凌辱。
唾液の交換。
何より吐息が甘く漂ってくる。
今僕らの気持ちは重なっていた。
きっとツナデは毎日不安に晒されている。
こんなどうしようもない僕を想ってくれる女の子がこんなにも増えれば当たり前だ。
だから、
「キスくらいで不安が沈静化するのなら幾らでも出来る」
のだ。
外道なのは百も承知である。