雪の国18
そんなわけで都市を出る。
トナカイのソリ(にしては豪奢な屋根付きのソレだけど)に乗って僕らは次の村へと向かっていた。
ソリはホテルが準備してくれたものだ。
一流ホテルはサービスまで一流だった。
だからこそ運営できているのだろうけど。
「それにしても」
と御者さん。
「万年雪の吹雪をおさめるなんていったいどんな理屈です?」
単純にトライデントの結果です。
とは言えない。
あまり引かれるのもよろしくない。
「今日がいい天気なんじゃないですか?」
「あんたら商人ってわけでも無さそうな」
「単なる浪人です」
「お兄様……」
一人ネタが通じるツナデだった。
こっちには大学なぞ有るまい。
とまれ次の村へと向かう。
ヒロインたちは安穏にトランプ。
ちなみに今日はブラックジャック。
僕は薬効煙をプカプカ。
「ウーニャー」
とウーニャーは僕の頭の上でくてっとしていた。
日が暮れる前に村には辿り着いた。
小さな村だ。
聞くに商人の宿泊用だという。
何でも雪の国ブランドの時計は他国でも高く売れるらしく、商人は吹雪と闘いながら時計を購入し転売するとのこと。
僕らには関係ない話なんだけど。
煙を吸って吐く。
そして次の村に着いた。
日の入りが起きない内に村に着いたのは御者さんのおかげだ。
「どうも」
と金銭を払うと、
「まいどあり」
と御者さんはシニカルに笑った。
と、
「お願いします! どうか勘弁を!」
そんな声が聞こえてきた。
とっさに僕はオーラを広げる。
大体村を覆う程度だ。
状況の把握。
騎士が五人。
騎士が掴んでいる少女が一人。
騎士にすがりつく女性が一人。
後は周りを囲む村人たちの無気力な様子。
印を結んで術名を発す。
「刃遁の術」
騎士にかけるも痛痒を覚えないようだった。
ということは、
「妖精……か……」
「ウーニャー?」
ウーニャーが不思議そうにする。
ツナデとイナフもオーラを広げて状況を把握する。
唇を読んだだけなんだけど、
「いやぁ!」
と騎士に拘束されている少女が叫んでいた。
「とりあえず」
と僕は言う。
「放ってはおけないよね」
「ですね」
「だよ」
そう云うことになった。
トナカイのソリから降りて村を一瞥し、
「あー……なるほど」
そりゃ遁術が通じないわけだ、と納得した。
少女を拘束している騎士は氷で出来ていた。
アイスゴーレム。
そう呼ばれる存在だった。
妖精の一種なのだろう。
そんな氷の騎士たちは一人の少女を拉致しようとしていた。
すがりつくように、
「堪忍を!」
と女性が哀願しているが騎士たちは頓着していなかった。
それだけで大体の事情は分かる。
「待った」
と僕はちょっと待ったコールをかける。
「何だ?」
氷の騎士がこちらに意識をやった。
その数五人。
というか五つ。
「その子をどうする気?」
「スノウ王の愛でる対象に選ばれたのだ」
「氷の彫像にすると?」
「他にあるまい」
「本当に圧政なんだなぁ……」
そんなことを思う。
「でもその子の母親は納得してないみたいだよ?」
「雪の国に住んでいる以上スノウ王の言葉は絶対だ」
「でっか」
じゃあ、
「実力行使に出ようかな?」
僕がそう云うと、
「痴れ者め!」
アイスゴーレムたちは襲いかかってきた。