雪の国17
「やっぱジャンヌの暖房結界は温かいね」
「恐縮です」
ジャンヌは照れ笑い。
そゆとこも愛い。
一応万年雪の支配する国だ。
ジャンヌ抜きでデートすれば寒いに決まっていた。
無論一流ホテルに告げればコートを貸して貰えたから凍えるほどじゃないけど、寒いものは寒いのである。
で、
「ほにゃら」
僕らは湯船に浸かっている。
「時に」
とリイナ。
「マサムネさんの本命は誰なんです?」
「ウーニャー」
「ウーニャー!」
ウーニャー(人型)が僕をギュッと抱きしめる。
「うわぁ」
とはリイナ。
ジョークに決まってるのに信じたみたいだ。
別段誤解を正すこともないだろう。
「ウーニャー! ウーニャーもパパが好き!」
「ありがとね」
虹色の髪をくしゃくしゃ撫でる。
今風呂場にいるのは僕とウーニャーとジャンヌとリイナ。
ウーニャーとリイナは自動的だけど、ジャンヌはトランプゲームで勝って同室権を獲得した塩梅。
何より暖房結界は有り難かった。
「さて」
と僕。
「王都には雪の妖精がいるんだよね?」
「はい」
それもうようよと。
そんな補足。
「君を助けたときに遁術で攻撃したんだけど利かなかったんだよねぇ」
「遁術というと?」
「それについては割愛して」
閑話休題。
「つまり雪の国の王都では変化の術が通じない」
「変化の術というと私を別人に見せるアレですか?」
「ソレです」
「妖精に利かないのなら利かないなりに身の振り方はありますよ」
「たとえば?」
「王都の地下に根を張ったレジスタンスの基地の入り口が王都の壁の外にあります故」
「なるほどね」
「後はどうやってスノウ王を弑するかですけど……」
「邪魔する奴らは皆殺しでいいんじゃないの?」
「一国と争う気ですか?」
「うん……まぁ……」
ぼんやり肯定。
というか他にどうしろと?
「勝てると思ってます?」
「むしろ余裕だと思ってます」
「……ですか」
嘆息される。
失敬な。
「なんならウーニャーのドラゴンブレスで王都丸ごと消し去ってもいいんだよ?」
「出来るんですか?」
リイナの目線がウーニャーに向けられる。
「ウーニャー。出来るよ」
いと平然と肯定してのける。
「雪は水分で出来てるからフィリアのトライデントの範疇だし」
「うわぁ」
「あるいは熱に弱いからジャンヌの異能でも対処可能だし」
「そういえば私を助けてくれたのはジャンヌさんでしたね」
「畏れ入ります」
ジャンヌは丁寧に一礼した。
「僕もまぁ一応通じる魔術は持ってるんだけど」
超振動兼超高熱刀。
雪の妖精程度なら滅ぼせるはずだ。
「問題は……」
「問題は?」
「ツナデとイナフだね」
対人能力ならば比類なき二人ではあるけど雪の妖精相手に熱や水分への干渉を可能とする能力を持っていない。
拳銃で雪だるまを撃っても脳を持っていない手前……意味は無いだろう。
イナフの短刀もそうだ。
無論二人の器用さがあれば覚えることも可能だろうけど旨みはない。
こっちに特記戦力があるのに今更雪の国専用の対処魔術を覚えるのも技術の空費とさえ言える。
「まぁ後れを取らないだけマシだけどね」
「雪の妖精は強いですよ」
「そうなの?」
「ええ」
コックリとリイナ。
「そもそうでなければレジスタンスが地下に籠もる必要がありません」
「然りだね」
納得のいく話だった。
「レジスタンスに荷担する王都民はいないの?」
「たくさんいます」
「たくさんいるんだ……」
「誰もがスノウ王の圧政に不満を持っていて身内を氷の彫像に変えられた人たちは数えるのも馬鹿らしいです」
「でっか」
ふい、と僕は肩まで湯に浸かった。