雪の国16
「というわけで」
とイナフとウーニャーとフィリアが言った。
「イナフたちともデートしてください」
「ウーニャー!」
「お姉さんだって堪忍に限界はあるんだから」
「ですか」
ホテルで朝食を食べながらうんざりするのだった。
「じゃあそうしましょう」
食後のコーヒーを飲みながら僕は頷いた。
そんなわけでそんなことになった。
僕の頭にウーニャーが乗って、両腕にイナフとフィリアが纏わり付く形だ。
しばらくプラプラと歩いて、
「お兄ちゃんはフォトンとツナデに甘すぎ!」
「ウーニャー!」
「お姉さんを抱いていいのよ?」
そんな詰問に晒される。
「とは言われましても……」
僕にしてみればフォトンとツナデは別格だ。
辛い現実から引き離してくれたのがフォトンだ。
辛い現実において唯一味方してくれたのがツナデだ。
であれば他の者の慕情なぞ後付けに過ぎない。
そう思っている。
問題は、
「ヒロインたちと想いを共有できないことだよね」
そう云うことだった。
両手がイナフとフィリアに塞がれているため薬効煙も吸えない。
特に吸うべき所でもないのだけど。
ブラブラと歩いていると、
「おや」
教会が見えた。
「雪の国でもデミウルゴスは信仰されてるんだね……」
「この世界では当たり前だよ?」
「ですね」
「さいでっか」
最後の言は僕のものだ。
「教会ねぇ」
自然と足が向く。
入ると独特の香薬の匂いが迎えてくれる。
薬効煙で馴染んでいるので今更警戒するほどでもなかったけど。
祈る者がいる。
聖歌を唄う者がいる。
主の導きを説く者がいる。
「そういえば使徒については詳しくないね」
「たまに見かけたよね?」
イナフの問いに、
「うん。まぁ」
しぶしぶ頷く。
「使徒が亜人を倒す存在なのは知ってるけど……」
「その認識で合ってますよ」
フィリアが言った。
「スノウ王は範疇じゃないの?」
「どうだろ?」
「どうでしょう?」
イナフとフィリアは首を傾げた。
「まぁそんなもんだろうね」
一人納得する。
「ウーニャー!」
とウーニャー。
僕の頭に乗って尻尾ペシペシ。
「神のご加護を受けているなら問題無いんじゃない?」
「かもね」
それ以上は不徳であるため口を閉ざす全員。
「いらっしゃいませ」
一人の使徒が和やかに僕たちを出迎えてくれた。
「教会への礼拝でしょうか」
「いえ……」
と否定しかけて、
「はあ。そうです」
と取り繕った。
「では祭司様に礼拝を。あなた方にデミウルゴス様のご加護が有らんことを」
そして使徒は僕たちを導いた。
「今時唯一神論ってのもなぁ……」
小声でボソリと呟く。
しかし否定はできない。
何故ならこの世界は、
「巫女が唯一神を観測した」
モノなのだから。
「祈れ。さらば救われん」
それが祭司の言葉だった。
別段唾を吐いても問題は無いのだけど、
「面倒」
の一言で郷に従う僕たち。
それから喫茶店に席を取ると、イナフが問うてきた。
「お兄ちゃんの世界には神はいないの?」
「いないよ」
「だからマサムネちゃんは神に対して懐疑的なのね」
「まぁ間違っちゃいないけど……」
苦笑してしまう。
「まぁ実在する神がいるというのなら信じる他……無いけどさ」
「お兄ちゃんの世界に信仰はないの?」
「あるよ。いっぱいある」
「いっぱいあるんだ……」
「それはもう数え切れないくらい」
唯一神の信仰はその一つ。
皮肉気にそう云う僕だった。