雪の国14
「それで?」
と雪の国の都市にてぶらつきながらデートをしていると、
「何か?」
フォトンと僕はそんな問答をした。
ちなみに珍しくウーニャーも頭に乗っていない。
それはそれで軽くはなるのだけど、
「なんだかな」
というのが本音だ。
ウーニャーの重みに安心感を覚えていたことの裏返しだ。
「私の維持魔術……?」
「無限復元」
サクリと言ってのける。
ことこういうことに関して僕に遠慮はない。
薬効煙に火を点けてプカプカ。
「何故そうと?」
問うフォトンに、
「むしろ何故違うと?」
僕は反問した。
「むぅ」
とフォトンが唸る。
「僕の薬効煙に火を点けるための炎の魔術は維持魔術。炎を意識的に維持しなければならないのは……ま、ご存知の通り」
「ですね」
「対する薬効煙は非維持魔術。生み出せば質量として勝手に残る。後は維持魔術である炎の結果として薬効煙に点いた火も自然現象に加わるから維持する必要は無い。ここまではいい?」
「ええ」
「フォトンの魔術のほとんどは消費魔術でしょ? 使えば使ったきりで効果を現わして消える。まぁタイダルウェーブは質量として残るから消費魔術とは言えないだろうけど……それでも術者の意志を離れて存続するから非維持魔術に相違ない。ましてファイヤーボールもディバインストライクもアースソードも一過性でしょ。唯一サイクロンが維持魔術になるのかな?」
「…………」
「つまり魔術を魔術足らしめんと意識して維持しなければならない効果ってのが魔術にはある」
「それは認めます」
「であればフォトンの無限復元も術者の意識で維持しなければすぐに効果を失う魔術であるはずだ」
「…………」
「となれば」
薬効煙をフーッと吐く。
「能動的に効果を現わす無限復元は維持魔術に相当するってこと」
「ではラセンが今でも私に無限復元の呪いをかけ続けている、と?」
「んー……」
僕は難しい顔をした。
せざるを得なかった。
「自分の察している仮説が正しいのなら」
そんなことを思ってしまったのだ。
「何かしら問題が?」
「ないわけじゃないけど……」
プカプカ。
「ま、とまれどっかの誰かがフォトンの無限復元を維持してるのは間違いないね」
「ラセン以外にいないでしょう?」
「さて、それはどうだろね?」
「違うと?」
「とは言わないけど」
吸い終わった薬効煙を地面に落とし、グシャグシャと踏みにじって鎮火させる。
「とすればラセンを殺せば私は無限復元から解放されるのですね」
そう上手くいけばいいけどね。
口にせず。
そう反論する僕だった。
それから僕らは喫茶店に入った。
ポケーッとコーヒーを飲む。
「しかしてどうやってラセンを殺しましょう?」
「妥協を持ちかけるんじゃ駄目なの?」
少なくとも僕の仮説が正しいのならば意味は無いけど。
「要するにラセンに私への無限復元の干渉を解けと?」
「そ」
コーヒーを飲む。
「それで納得しますかね?」
「じゃあ問うけど」
少しだけ目を細める。
「同じく無限復元のラセンを力尽くでどうにか出来る?」
「あう……」
自身が無限復元の福音を享受している身である。
ラセンが同一条件であるならば……なるほど、力尽くを却下せざるを得ないだろう。
「なんとか殺す手段は無いものでしょうか?」
「デミウルゴスに願って無限復元を超える破壊性の魔術を再現すれば?」
「なるほど」
多分無理だけど。
僕はやはり口にはせず反論する。
「しかしてこれ以上魔術を覚えようとすればパンクしかねませんね……」
「だろうね」
そこにもラセンの意図が見て取れる。
想像創造は極度のコンセントレーションが必要だ。
空想を現実と誤認する鉄壁の魂が試される。
であるため僕やツナデやイナフのように精神修行をしてきた者でも無ければ一つの魔術を覚えると言うことは途方もない道のりなのだ。
総じてコレをマジックキャパシティという。
魔術師の限界。
才能。
容量。
それらを総じた名称である。
もっとも僕にとっては、
「特に勘案することかね?」
と云うことになるのだけど。