雪の国11
ホテルにチェックインした後。
リイナを部屋に監禁して僕らは観光に時間を費やした。
何でも時計産業が雪の国の名物らしい。
値段は天井知らずだった。
時計というものは時間に対する信頼で成り立っている。
であるためブランドとして雪の国の時計は重宝されているとのこと。
本当にスイスである。
雪に覆われたこの国では時計産業が発達するのも無理なからぬ所だろう。
こういう時は巫女の思考が読み取れる。
優秀な時計師の工房を見学する僕らだった。
摩耗しにくい宝石を使った腕時計。
緻密に計算された機構。
黒板には時計の図面が載っていた。
カチカチと部品を当て込んでいく職人芸には感嘆とするばかりだ。
とまれこれが雪の国ブランドの時計ということなのだろう。
時計師の最奥を見た気分。
また部品の精密なこと。
職人の注文に応える部品の生成だけでも感嘆の吐息を漏らしてしまう。
時計という複雑機構が天井知らずの値段になるのも納得がいくというものだ。
そんなこんなで時計師の工房を覗いた後、
「すごいね」
やはり喫茶店でお茶する僕らだった。
「ですね」
「です」
「うん」
「ウーニャー」
「だわね」
「確かに」
そんなヒロインたち。
僕はコーヒーを飲んで言う。
「やっぱりスイス?」
「でしょうね」
ツナデが頷いた。
「スイス?」
とツナデ以外のヒロインたち。
「似たような国が僕らの世界にもあるってこと」
「はあ」
とヒロインたち。
「道理で」
とこれは僕。
「こんな不便な国に商人が集まるわけだ」
と言わざるを得ない。
「ウーニャー。何が?」
「雪の国ブランドの高級時計は商売になるってこと」
「ウーニャー……」
「お兄ちゃんでもそう思うんだ?」
「別段買うつもりもないけどね」
あまり時計には興味が無い。
職人技には感嘆とするけど、
「日入りに起きて日暮れに寝られれば文句がない」
のが僕という人間だ。
「私は欲しいのですけど……」
とフォトン。
「んだでば買えばいいんじゃない?」
「んー……」
悩むフォトンだった。
「別段必要とも思えないけど」
「ソレなんですよね……」
一応わかってはいるらしい。
「ま、今決める必要も無くない?」
「ですね」
フォトンは苦笑した。
「王都に行けばもっと見受けられるでしょ?」
僕は視線をジャンヌにやる。
「でしょうけど」
ジャンヌも肯定した。
つまりそういうことだろう。
「さて」
とこれは僕。
「この都市に雪の妖精は見受けられないね」
「さすがに威圧するのでは?」
ツナデが言った。
「そっか」
納得。
「というか雪の妖精がいたらリイナは血祭りにされてますよ?」
それも同意。
「王都に向かうんだよね?」
イナフが問う。
「そのつもりではあるね」
僕が答える。
「ソレはマズいかと」
ジャンヌが表情を険しくする。
「何故に?」
「リイナを連れて行くということでしょう?」
「だね」
「さすがに王都はスノウ王直属の妖精たちがいると思われます」
「それは確かに」
しかも妖精には遁術が利かない。
「そもそもリイナは何でレジスタンス?」
「ソレは当人に聞くしかないでしょう」
ごもっとも。
「面倒事が向こうからやってくるのも僕の業かな?」
「ですね」
あっさりとツナデが言った。
否定して欲しかったなぁ。
コーヒーを飲む。