渚の国34
一国が滅ぶ。
少なくとも死者たちは。
浄化の炎で、
「やっと死ぬことが出来た」
デッド王の持つデスエンロールメントも燃え尽きた。
当然死者たちも塵に還る。
元よりデスエンロールメントの干渉区域である《結界》の中でしか死者は活動できないのだ。
その結界がなくなった今、死者たちが生きていられる道理はない。
全てをやり終えて僕たちは城を出た。
王都の状況は混乱していたけど、まぁそれも一時も経てば収まるだろう。
「やったのですねお兄様」
「僕は何もしてないけどね」
ツナデとイナフとフィリアとも合流した。
元より兵士たちが追っていたのはイナフが遁術で変化した偽ジャンヌだ。
デッド王の死亡により死者の兵士たちも塵に還ったため情報は言葉が無くとも通じる。
「なんてことを……してくれたんですか……」
醜女が絶望していた。
「ドーリ……かな?」
「なんでデッド陛下を浄化したんですか……?」
「特に意味は無いよ」
本音だ。
「私は不老不死を……願ったのに……」
「無限復元の魔術でも研究するんだね」
チラと視線をフォトンにやる。
「…………」
嫌そうな表情をしていた。
くっくと笑う。
「ま、生きてりゃ丸儲けでしょ」
「何がです!」
「仮にドーリがデッド王に謁見した後に僕らがこの状況を引き起こしたらドーリも死ぬはめになったんだよ?」
「っ!」
「結果論だけどつくづく運が良かったんだよ」
「何故デッド陛下を殺したんです!」
「宿命と宿業……かな?」
「宿命? 宿業?」
「デッド王に対するアンチテーゼ。浄化のジャンヌがデッド王を殺す宿命を持っていた」
朗々と言葉を紡ぐ。
「対してデッド王はデスエンロールメントに登録した自分を破却したいという宿業を持っていた」
淡々と言葉を紡ぐ。
「であるからジャンヌとデッド王は利害が一致したんだよ。後は緩衝としてフォトンが間に立てばこの通り」
肩をすくめてみせる。
「じゃあ陛下は死にたがりだった……と?」
「うん」
コックリ。
特に配慮もなく肯定した。
「じゃ、後は頑張って生きてね」
無責任丸出しで僕はそう言ってのけた。
「悪党」
「お悪い人です」
「お兄ちゃん……」
「ウーニャー……」
「らしいわね」
ヒロインたちからジト目を向けられた。
なにさぁ。
悪いこと言った?
「ええ」
「はい」
「です」
「ウーニャー」
「ふふ」
虐められてる気がするのですが。
とりあえずドーリとは別れて商人が経営しているカフェに入る。
死者が経営しているカフェは営業停止だからね。
チョコレートを皆で飲んでいると、
「私はこれから何をすればいいでしょう?」
ジャンヌが途方に暮れていた。
気持ちは分かる。
デッド王のアンチテーゼとして生きてきたのだ。
ラスボス倒した後のテレビゲームにどうやって熱中すればいいのかは当人にはわからないだろう。
「じゃあさ」
と僕の提案。
「僕たちと旅をしない?」
「マサムネ様たちと?」
「うん。まぁ。ジャンヌさえ良ければ」
「旅の目的は?」
「ブラッディレイン……ラセンを探すこと」
「ラセン……A級賞金首じゃないですか!」
まぁ僕らについては人のことは言えないんだけど。
僕とフォトンとツナデもA級賞金首だ。
「想像創造も世界宣言も無しに灼熱の炎を操るジャンヌがいてくれたら戦力の補強にも為るし」
「いいんですか? 私がマサムネ様と一緒しても……」
ちなみにジャンヌ以外のヒロインたちは虫歯をこらえるような顔をしていた。
「大丈夫。究極的に反論は出ないから」
「お兄様……」
「却下。というわけで宿命から解放されたんだから明るく楽しい旅に同行してくれると嬉しいよ。ジャンヌなら足手纏いにはならないだろうし」
「いいんですか?」
いいんです。