魔の国01
「お、見えたね」
「見えましたね」
光の国の要塞都市を半壊させて逃げ出した後、僕とフォトンは光の国の国境を越えて魔の国へと入った。
そして歩くこと二日。
今度は魔の国の要塞都市を眼前に捉えたのだった。
光の国と魔の国の要塞都市は互いに牽制や小競り合いを繰り返しているのだ。
フォトンの受け売りだけど。
ヒュルリと風が吹く。
フォトンの深緑の髪の……シュシュで纏められた尾っぽが揺れる。
「ところで本当に光の国は干渉できないの?」
僕は不安であるところを聞いた。
「大丈夫ですよ。それはまぁ私を取り戻すためにエージェントが来ないわけはないですけど少なくとも大っぴらに動くことはありません」
「エージェントはくるんだ……」
「私は光の国の財産ってことになってますからね」
「財産ね……」
「まぁ私が無限復元を持っている以上過度な干渉は無駄ですからしないでしょうけど、縄で縛って動けなくすれば持ち運びは出来ますしね」
「でも魔術があるでしょ?」
「世界宣言……呪文を唱えないと魔術は使えませんから。猿轡をかませられるとどうしようもありません。それに……」
「それに?」
「マサムネ様が人質に取られた場合はどうしようもありませんね。まさかエージェントごとマサムネ様を魔術で吹っ飛ばすわけにもいきませんし……」
「見捨ててくれていいんだけど……」
「ありえません!」
「でもフォトンは無限復元をフォトンにかけた魔術師を探さないといけないんだよね? ならそれを貫くべきじゃない?」
「それでもマサムネ様を見捨てるわけにはまいりません」
「覚悟……足りないんじゃない?」
「不覚悟でも構いません。マサムネ様を見捨てるくらいなら」
「何で会ってそこらの僕を大切に出来るのさ?」
心底不思議だった。
「ぶっちゃけた話……僕を使って城から脱出した時点で見捨てた方が効率は良かったんじゃないかな?」
「マサムネ様を異世界から召喚したのは私です。であればそんな勝手をした私にはマサムネ様を保護する義務があります」
「嘘だね」
僕は断じた。
「……っ」
言葉を失うフォトン。
「何が嘘なんでしょう……?」
「僕は人の顔の筋肉の動きを読み取って真偽を見分けることができるんだ。それで得た結論……君は嘘をついている」
「…………」
「で、本当は?」
「あ、う……」
ゴニョゴニョと狼狽えながら何かを呟き、
「一目惚れなんです……」
フォトンはそう言った。
「はぁ?」
意味がわからないと僕。
「ですから……! 一目惚れなんです!」
顔を真っ赤にしてそう叫ぶフォトンだった。
朱をさした美少女の顔とは趣がある……っていうか……、
「惚れた?」
クネリと首を傾げる僕。
フォトンは嘘を言っていない。
それはわかる。
しかして内容は突拍子もない。
「うう……」
と恥ずかしげに顔を俯かせて照れるフォトンは最高に可愛いのだけど、
「なにゆえ?」
そう問わずにはいられない。
「だから一目惚れなんです! 理由なんかありませんよ!」
それはそうだろうけど……。
「僕なんかの何がいいのさ?」
「格好良いところ……とか」
「そっかなぁ……?」
自分ではダサいボサ髪少年だと自認しているのだけど。
「強いところ……とか」
「うん。まぁ。強いね」
それは否定できない。
「優しいところ……とか」
「優しくしたっけ?」
「私が勝手に異世界に召喚したのに責めることもなく一緒にこうやって隣を歩いてくださってるじゃありませんか」
「状況に流されているだけなんだけどな」
「でも……王城からの脱出を手伝ってくれたりトロールから村を救ったり、とにかく人が良いじゃないですか」
「そりゃ善良な一市民を目指してるからね」
「とにかく理由なんて有って無いようなものです。召喚したマサムネ様を見た瞬間私は一目惚れしたんです」
そりゃ光栄なことで。
僕は突然の好意に戸惑う他なかった。
「それで? 僕はどうすればいいのさ?」
「何もしなくていいです」
「何もしなくていいの?」
「はい。一緒に旅さえしてくれれば」
「でも僕が君のアキレス腱なんでしょ? 君が言ったんじゃないか」
「それでも傍にいてほしいんです」
「ふーん。まぁいいけどさ」
ツナデといいフォトンといい何で僕に惚れるんだろう?
世界の摩訶不思議だ。
ともあれ微妙な空気になりながらも僕とフォトンは魔の国の要塞都市に辿り着く。