渚の国31
次の日。
ホテルをチェックアウトすると僕らは王都を観光することにした。
さすがに不老不死の美少女が多数いるとはいえ市場の流動性がなければ街は廃都と化す。
であるため美少女でない商人たちが大きな声を張り上げながら活気ある市場を盛りあげていた。
「はぁ」
「へ~」
「ふーん」
ジャンヌはキョロキョロと市場を見やる。
「大盛況ですね」
「王都ならこんなものじゃない?」
実際今まで色んな市場を見てきたけど規模としては中の中と言ったところだ。
そんなわけで保存の利く食物を買ってストック。
あとは甘味処を見つけてそこでお茶と相成った。
僕らはチョコレートを飲んでスコーンを食べながら言った。
「結局力押しで行くの?」
「謁見を待ってたら時間がかかりますし」
ジャンヌは平然と言った。
「まぁそうですね」
どういった方法をとるにせよキーマンであるフォトンは気楽そうだった。
「矛盾」
と云う言葉がある。
言葉の説明は今更だからしないけど。
無限復元のフォトン。
絶死邪眼のデッド王。
不死と死。
即ち矛盾だ。
が今回に関しては特に意識しなくてもいいだろう。
無限復元はある意味で『不死ではない』のだから。
じゃあ何かと問われれば今はまだ秘密。
というかラセンとフォトンの関係性から逆算した仮説の段階で公言して外れてたら恥ずかしいし。
「でもさ」
とこれはイナフ。
「どうせやるなら穏便がいいんじゃない?」
チョコレートを飲みながら。
「何で?」
と危機感が足りないのはフィリア。
こいつは~。
「デッド王が暴れ出したらフォトン以外は殺されるでしょ。それとも僕ら全員フォトンに密着したまま団子状態で城の護衛兵全員を相手するの?」
「むぅ」
個々人に動けば邪眼の餌食だ。
そうでなくとも不死の軍団に本当の意味で対抗できるのはジャンヌの浄化の炎だけ。
で、あるため全員でカチコミはありえない。
「とりあえず」
と僕は提案する。
「二手に分かれよう」
「片方はフォトンとジャンヌでしょう?」
「そこに僕とウーニャーが加わる」
「お兄様まで?」
「遁術を使える人間がいた方が良いでしょ?」
「それは……そうですけど……」
「じゃあもう一班は」
「ツナデとイナフとフィリアだね」
「こちらは何をすれば?」
「陽動」
「となると……」
イナフが視線をフィリアにやった。
「私のトライデントで暴れれば良いと?」
「そゆこと。ツナデとイナフのどっちかはジャンヌに変化して王都の話題をかっ攫って」
「わかりました」
「わかったよ」
「さて、それじゃあ」
と言ったところで、
「テロリストだ!」
そんな声が上がった。
チラリとそちらに目をやれば何処かで見た醜女。
「ドーリですよ」
そういえばそんな醜女がいたね。
ドーリが言った。
「きっとジャンヌを連れてますよ!」
『ジャンヌ』と云う言葉に道行く人たちが反応する。
全員が警戒と恐怖と敵性とを顕わにする。
「ジャンヌ……!」
既に敵のまっただ中。
「イナフ」
「なぁにお兄ちゃん?」
「ジャンヌに変化して出来るだけ王都から遠のいて」
「うん」
「ツナデは透遁の術でフィリアのフォロー」
「はい」
「フィリアはてきと~に暴れて。あまり一般人を害しない方向で」
「はいな」
「で、ウーニャーはフォトンの頭に乗ること」
そう言って僕の頭に乗っているウーニャーの首根っこを掴んでフォトンの頭に乗せる。
「ウーニャー」
僕はオーラを広げると両手で印を結んで術名を発す。
「透遁の術」
「消えた!?」
こちらに注目していた衆人環視が驚く。
そして僕とジャンヌはフォトンと手を繋ぎ、ウーニャーをフォトンの頭に乗せて、状況開始。
イナフがジャンヌへと変化して城から距離を取るように走り出す。
壁と柱を蹴って王都の民家の屋根まで上り跳躍を繰り返しながら陽動を買って出てくれた。
ここにフィリアの牽制が入る。
ツナデのフォロー付きで。