渚の国29
そんなわけで王都を目指すことになった。
徒歩で三日……と云ったところらしい。
案外王都から近いのは大都市から近い故か。
それとも王都に招聘された人間を救うためか。
とまれ歩くのも気怠いので変化の術で僕らはムッチムチの益荒男に為りヒッチハイクをした。
馬車を捕まえて乗せて貰う。
金銭を少し払って。
ちなみにジャンヌは火の属性があるため火の魔術と相性が良いらしい。
あんな廃城からどうやって情報を集めていたかというと使い魔との感覚同調とのこと。
鳥や翼が火の象徴であるため、鷹の目で情報を集めるのも容易いとジャンヌに聞いた。
「ところでこの異常現象は?」
ボソボソと呟くように囁いてくるジャンヌ。
「遁術」
「遁術?」
「あー……いわゆるエルフ魔術」
「エルフ魔術はこんなことが出来るんですか?」
自身のムチムチの筋肉を見やりながらジャンヌは呆けた。
「対象者の視覚に介入して映像を改竄させただけだから本質的には何も変わらないけどね」
「はあ」
ジャンヌのポカン。
「ウーニャー」
と僕の頭上のシルクハットが機嫌良く答える。
無論ウーニャーを変化させたシルクハットだ。
声は僕のモノと同質にさせているため違和感はないだろう。
「色々出来るみたいよ?」
「色々とは?」
「霧を発生させたり透明になったり」
「強姦や覗きに便利そうな技術ですね」
否定はしない。
僕は薬効煙をプカプカと。
「でもマサムネ様はエルフじゃありませんよね?」
「色々あるんだよ」
プカプカ。
「お兄様?」
これはツナデ。
「ジャンヌにばかり構わないでください」
寄り添ってくるツナデなんだけど、
「おえぇ……」
ジャンヌがドン引きしていた。
僕たちのメンツで一人だけオーラに耐性のないジャンヌだ。
筋肉ムッチムチの益荒男同士がイチャつけば絵面的に厳しいモノに成るのは必然である。
「どういう需要です?」
こっちが聞きたいわ。
「ウーニャー……ツナデはパパのこと好きね……」
「あなたもでしょう?」
「ウーニャー!」
「不肖私も!」
「イナフも!」
「お姉さんも……ね」
「お客さん」
と馬車の御者さん。
「何でしょう?」
「男同士で乳繰り合うなら目の届かん所でやってくださいよ……」
あまりにキモすぎる。
御者さんはそう云った。
気持ちは分かる。
「というわけで乳繰り合い禁止」
ムキムキマッチョ同士がイチャイチャして何が楽しいというのか。
ちなみに護衛の一人が胡乱げな目でこっちを見やってた。
馬車をヒッチハイクした際に既に乗っていた人物だ。
商人が雇った護衛なのは見れば分かる。
美少女だけど鎧から覗く肉体は引き締められていて、おそらくイナフ辺りでも意識しないと楽勝とは行かないだろう。
「世話かけます」
僕は低く謝った。
「いえ、いいんですけど……」
マッスリアンに困惑する護衛さん。
「ところであなた方も王都へ?」
「ええ、まぁ」
まさか、
「デッド王を暗殺に」
とは言えなかったけど。
「不老不死を?」
「まぁそんなところで」
「良い心がけです」
爽やかに護衛は笑って見せた。
「…………」
僕らは押し黙った。
「あー」
とか、
「うー」
とか呻きながら言葉を探す。
先に護衛さんが言った。
「しかして不老不死になれば華奢な美少女にされてしまいますよ?」
「まぁその時はまた鍛えれば……と」
「マッスリズムの業ですか」
「そんなとこです」
護衛さんの苦笑に僕は苦笑いで返した。
実際が違うためどうしても笑って誤魔化すほか無かった。
「ウーニャー……これだからパパは……」
「ですね」
「はい」
「うん」
「ええ」
「です」
全員からこき下ろされた。