渚の国26
薬効煙をプカプカ。
とりあえず、
「自己紹介がまだだろう」
ということで僕らはジャンヌにそれぞれ個人情報を進呈した。
「ということはあなた様がセブンゾール……無限復元のフォトン様!?」
ジャンヌはフォトンに感激しているようだった。
「感激されるほど大層な存在ではありませんが……」
フォトンはむず痒く言う。
「フォトン様さえいれば百人力です!」
「何に対して?」
「デッド王の暗殺」
「っ!」
ドーリが憎しみをジャンヌにぶつけた。
それについてジャンヌは勘案しない。
「フォトン様ご一行」
とこれはドーリ。
「ジャンヌを殺してデッド王に拝謁しましょう」
「…………」
と僕ら。
とりあえず代表で僕が答える。
「それはジャンヌの言葉を聞いてから決める」
「っ! そうですか! では私は先を急がせて貰います!」
「丸腰で?」
「あう……」
とドーリが呻く。
「木を以て命ず。世界樹の実」
僕は世界樹の実を作り出してドーリに渡す。
「当座はソレを食べて凌げば?」
「世界樹の……実……?」
「うん。二口ほど食えば三日は持つね。次の村に着くまで大事に食えば空腹を覚えずにすむはずだよ」
「私は陛下に拝謁すればジャンヌの動向を口にしますよ」
「構わない」
少なくともそんなことは問題にならないのだ。
「っ! ですか! では!」
そう言ってドーリは先に進んだ。
ジャンヌの都合を考えるならば止めるべきだろうけど、とてもそうは言い出せない。
であるため怒り肩で去って行くドーリを誰も止めはしなかった。
「ドーリ様はどうなさったんですか?」
まぁそうなるよね。
元が渚の国の民でフォトンによって醜女に戻されたこと。
薬効煙を吸いながらそんなことを説明する。
「ふわぁ」
とジャンヌ。
「さすがはフォトン様です」
「恐縮です」
馬肉を食べながらフォトンが言った。
「それで?」
と話題を戻す。
「死者を増やすってどういうこと?」
「その通りですけど」
まぁねぇ。
「デッド王が国民を殺してるってこと?」
「正確にはデッド王が殺した人間が国民になるんです」
そこがわからない。
「ええと……」
ジャンヌはこめかみを押さえて言葉を探し、紡ぐ。
「デッド王は視界に収めた人間を殺す邪眼を持っています」
バロールか。
「そして邪眼で殺した人間をデスエンロールメントに登録します」
「デスエンロールメント?」
直訳すれば『死の記録』だ。
「つまり自分で殺した相手の情報を記録として登録する技術を持っているんです」
「で」
とこれは僕。
「その登録した死者の情報を再構築して不老不死の国民を量産していると?」
「そういうことです」
ジャンヌも肯定してくれた。
「で、それとジャンヌのテロリズムとがどう繋がるの?」
「私しかこの国の膿を吐き出させることが出来ないからです」
んーと……。
「……ウーニャー?」
僕とウーニャーが首を傾げた。
「私が炎を操るのは見せましたね?」
「はい」
「ええ」
とフォトンとツナデ。
「それがジャンヌお姉ちゃんの特技?」
とイナフ。
特技で済むレベルだろうか?
一種の特異体質だ。
「そういえばジャンヌちゃんの炎で焼かれた御者さんは復活しないわね」
それが此度の肝だろう。
ジャンヌは手の平に炎を生み出すと、握りしめて散逸させた。
「これが私の能力です。デスエンロールメントから魂の情報を消滅させる浄化の炎」
「魂の情報……」
「浄化の炎……」
僕とツナデが目と目で会話。
というか、
「んなアホな」
という応酬でしかなかったけど。
「魂?」
「浄化?」
再度口にすると、
「ええ」
と生真面目にジャンヌは肯定してくれるのだった。